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第8話 二人の日常 続き(10)
「だから、シャンプーだよ…可愛いワンちゃん」
笪也は寝床から立ち上がると、幸祐の手を取って起こした。
「幸祐、一緒にシャワーしよ。だって…今日はちょっと興奮してさ」
笪也は幸祐をイカせた後の手のひらを見せた。
「手がどうしたの?」
「お前が出したのをこの手で受けた後さ、そのままお前の体を色々触ってて…だから、洗ってあげるんだよ」
笪也は楽しそうに話した。
「えっ…家のシャワーで?」
「そうだ、他にないだろ…ほら、起きて」
「でも…狭いよ、家のはさ」
「抱き合ったら、大丈夫だ。まだ、日付は変わっていないんだから、俺の言う通りにしてくれるんだろ?」
幸祐は起きると、パジャマを手にした。
「おいおい。すぐ脱ぐのに何で着るんだよ」
笪也は袖を通そうとした幸祐のパジャマを取り上げた。
「えぇ…裸で行くの?」
「家の中なんだから、俺達しかいないのに」
誰もいないとはいえ、裸は幸祐には抵抗があったが、笪也はまったく普通に階段を降りていった。幸祐も後に続いた。男二人が真っ裸で階段を下りる光景は俯瞰するとさぞ可笑しいんだろうなと、幸祐はクスクスと笑い出した。
「…なに?」
「ううん…別に。今日は笪ちゃんの言う通りにしまぁす」
笪也はシャワーブースの扉を開けて、湯を出しっぱなしにした。畳でいうと半畳くらいのスペースだ。
「こんなに楽しいんだったら、やきもちもたまにはいいか」
「…あぁ、もう。たまに、だからね」
「…わかってる…愛してるよ、幸祐」
笪也は幸祐をシャワーブースに連れ込むと、湯を頭から浴びながら、強く抱きしめて、唇を合わせた。
「あぁ…笪ちゃん…もっと…もっと抱きしめて」
「幸祐…愛してるよ」
いつもと、まったく違うシチュエーションでの抱き合いは、今度は幸祐を興奮させた。舌を絡める深いキスを受けながら、幸祐は自分の脚を笪也に絡め、筋肉質な太ももに股間を擦り寄せた。硬くなっていく幸祐のモノに気づいた笪也は、幸祐の濡れる髪を撫で上げながら言った。
「幸祐…お前、もう一回したいんだ」
「う…ん…笪ちゃん…お願い…して」
シャワーの水滴がついた長い睫毛の目で見つめて言った。
「なんだよ、自分から言うなんて…可愛いな」
笪也は幸祐の背後に回って、幸祐の股間を弄り、しっかり勃ち上がっているモノを掴むと、指の腹で、幸祐が一番感じる箇所を攻めた。
「ああぁ…いい…笪ちゃん…ねぇもっと」
「いいよ…もっとか?…もっとほしいって言えよ」
幸祐はシャワーヘッドのスライドバーを握り、もう片方の手を壁に突いて、笪也の甘い攻めを受けていた。
「笪ちゃん…いい…気持ちいい」
幸祐の下半身は蕩けていった。笪也は幸祐の首筋や肩を舌でなぞっては甘噛みを繰り返した。
幸祐は蕩けていく下半身を支えようと壁に突いた手を自分の頭の上よりも高い位置に伸ばした。天井を見上げるように、幸祐の顎が壁に引っ付くような体勢になった。喘ぎ声も強くなっていく。
「幸祐…気持ちいいか?…お前とこんな風に立ってできるなんて…刺激的だよ」
笪也は幸祐のモノを掴んでいない方の手で、幸祐の乳首から腋の下へ、そして腕から壁に突いた手先へ撫で上げていった。
後ろから覆い被さり、手を触れるそれは、笪也に、また休憩室での幸祐と森川のあのシーンを想起させた。今は森川ではなく、笪也自身だ。あの時、二人でこんなにも身体を寄せ合って、一体何をして、何を話して、あんな楽しげな顔をして、と、さっきまでの愛しさは、腹の奥底から湧き出る暗い感情にとって変わった。
喘ぐ幸祐の首筋に唇を這わせていると、堪えきれずにまた嫉妬の言葉を口にした。
「なぁ…幸祐。あの時、森川はお前に何て言ったんだよ」
「…え?…あん…笪ちゃん…な…に」
笪也の声はシャワーの音にかき消され、幸祐はもう絶頂を迎えようとしていた。
「…あぁ…笪ちゃん…もう…っ…イク…あっ…ん」
幸祐のモノから飛び散った精液は、瞬く間にシャワーに流された。そして笪也は幸祐をそのままの体勢にして、後孔の交わりを始めた。
「なぁ…森川はお前に身体をこうやって密着させて、何を言ったんだよ」
笪也の声のトーンが変わってきた。
「ほら、正直に言えよ」
「ねぇ笪ちゃん、どうしたの?…声、怖い」
笪也は幸祐の尻を割ると、一気に貫いた。その勢いで幸祐はつま先立ちになり、上半身を壁に押し付けられた。
「…あぁん…笪ちゃん…お願いだから…優しくして」
「だから、森川はあの時、お前に身体をこんなふうに密着させて何て言ったんだよっ」
熱いシャワーとこの体勢と幸祐の許しを請うような声が笪也の嫉妬心を助長させた。
「一人だと…あっ…右…左の…あん…位置が…上手く…いかないだろって…」
「それで」
「俺が…持ってやるからって…それだけ」
「他は?…それだけかっ?」
笪也の激しい突き上げで、身体が崩れそうになるのを堪えようと踏ん張って開いた幸祐の脚は、ガクガクと震え出した。
「あん…それと…検査の話しをした時…顔をしかめてたから、注射…嫌いなんでしょうって…言ったら…ああん…」
「で、どうしたんだよ」
「大嫌いだって…うっ…あぁ…誰にも言うなよって…笑って…た」
幸祐の声が次第にか細くなっていった。
笪也は幸祐の腰を持ちながら、最後のスパートをかけた。そして、ウオォッ、と吼えるような声を出すと、笪也の熱い体液と燃えるような感情が重なり合い幸祐の中でほとばしった。
笪也は幸祐を抱き留めていると、幸祐は膝からその場に崩折れた。
「…幸祐っ?」
笪也はシャワーを止めた。幸祐は目を瞑ってぐったりしていた。
「幸祐っ…おいっ…大丈夫か?」
笪也は急いで幸祐を抱えてシャワーブースから出すと、階段下のスペースに寝かせた。幸祐を抱き上げることは出来ても、そのまま梯子のような階段を上がるのは無理だった。笪也はバスタオルで幸祐を包んで、頬を軽く叩いた。
「幸祐っ…おいっ」
すると、幸祐は、はぁっ、と息を吐き出すと、目を開けた。
「…あぁ、笪ちゃん…」
「幸祐…お前、大丈夫か?」
「…ごめん…なんか、足に力が入らなくなって…ちょっと暑くて…ふらっとなっちゃった」
笪也は泣きそうな顔で、幸祐を抱きしめた。
「ねぇ…お水飲みたい」
笪也は、わかった、と言って、幸祐をその場にそっと寝かせると、階段を二段飛ばしで上がって行った。大急ぎでミネラルウォーターを数本持ってくると、幸祐を腕に抱えながらゆっくりと飲ませた。
幸祐はボトルの半分くらいを飲み、また、ふぅ、と息をした。笪也は幸祐の火照った頬に冷たいボトルをそっと当てた。
「なんかさ…俺もシャワーに興奮して、お湯をずっと頭から浴びてたから、のぼせたみたい…ごめんね、笪ちゃん…そんな顔しないで」
幸祐は、笪也の頬に手を伸ばした。
「ごめん…本当にごめん。俺、情けないよ…なんか急にムキになって…」
「笪ちゃん…俺…笪ちゃんにすっごい愛されてるんだね…ねぇ、そうでしょう?…笪ちゃん」
笪也は何も言わずに、抱きしめた。
「ねぇ、笪ちゃん…シャワーって、なんでこんなに興奮するんだろうね」
幸祐は悪戯っぽく笑うと、笪也の唇に指を移して、笪也が心配しないようキスをねだった。
その後、幸祐の後ろで笪也が支えるようにして階段を上がると、すぐに幸祐を寝床に寝かせた。
「大丈夫か?…気分悪くないか?」
「ありがとう。もう本当大丈夫だから…そんな心配しないで…」
笪也は幸祐の額に手をやって、具合を確認しようとした。幸祐はその手を掴むと、笪也の首に手を回して顔を近づけさせると、頬と頬を合わせた。幸祐はいつもの様子に戻っていた。
「手でみるより、ほっぺの方がいいよ」
笪也は頬擦りをした。幸祐の頬はまだ少し火照っていた。
笪也は片肘をつきながら、幸祐の添い寝をした。
幸祐は笪也にやきもちを焼かせようなどと微塵も思っていないのに、自分でも呆れるほど冷静さを失ってしまう。幸祐はこの情けない感情を、自分への愛情の裏返しだと言ってくれる。笪也は幸祐が心底、愛おしかった。
「…幸祐…ごめんのキスしてもいいか」
「いいよ」
幸祐は目を閉じた。
笪也は幸祐の唇を何度も優しく食んだ。愛してると、ごめんの気持ちを込めて。
しばらくすると、笪也は起き上がった。
「笪ちゃん…どうしたの?」
「うん?…ちょっと下を片付けてくるよ」
「あっ、それなら俺も一緒にする」
「ダメだ。お前は寝てろ」
幸祐が起きあがろうとするのを笪也は強めの言葉で制した。
「もう、大丈夫だから」
「ダメだ。幸祐…ハウス!」
「くぅーん…」
「すぐに戻るよ」
笪也は優しく言うと、階段を下りていった。
幸祐は横になりながら、笪也が立てているシャワーブースの扉の開閉や洗濯機を開ける音を聞きながら、幸せな気持ちになっていた。
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