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第9話 健康診断(1)
健康診断を前日に控えた朝、幸祐は笪也にだいたいの帰宅時間を訊いた。
「笪ちゃん…今晩、何時頃に帰れる?明日さ、健康診断だし、早めに晩ご飯を食べないといけないでしょ」
「あぁ、そうだな…出来るだけ早く帰るようにするけど」
「もし、遅くなりそうだったら、会社で何か買って食べてね」
「わかった。また、連絡する…じゃ、行ってくるよ」
「はい。いってらっしゃい」
笪也はいつものようにまだパジャマ姿の幸祐に、いってきますのキスをした。
笪也が出かけると幸祐は朝食の食器を片付けて、時計を見ながら自分も出勤する支度を始めた。
健康診断は仕事の都合や社員の人数の多さもあり、決められている期間中に連携している総合病院へ個々人で行くことになっていた。幸祐は笪也の仕事に合わせて、明日、一緒に受けることにしていた。
事前に告知ポスターや社内メールで受診を伝え、余裕のある受診期間を設けていても、それでも様々な理由を連ねては期間内に受診しない社員は毎年必ずいた。労働に関する法律で会社は従業員に必ず健康診断を受けさせなければいけないと定められている。その社員の為に、改めて病院に予約をするなど、幸祐はじめ労務部社員にとっては多忙な時期でもあった。
その日は笪也も早く帰ってくることができた。
「笪ちゃん、お帰りなさい。よかった早く帰れて」
「なんとか、切り上げることができたよ」
笪也は嬉しそうな幸祐の顔を見て、ただいまのキスをした。
「ねぇ、ご飯食べたら、最後の仕上げにちょっと長めの散歩に行こうよ」
「何だよ、最後の仕上げって…お前はそんなに外でキスがしたいのか」
「もう…明日の体重測定で去年より体重が増えてないようにするためでしょ」
幸祐はそう言って、傍に寄ってきた笪也の脇腹を摘んだ。
「知らないうちに代謝が落ちて、あっという間にぜい肉が付いてくるんだよ。笪ちゃんの筋肉もいつかは」
笪也はそれ以上言わせないように唇を塞いだ。
「…あっ…あん…もう」
「お前の講釈は健康診断の結果を見てから、ちゃんと聞くよ。散歩よりさ、お前の好きな寝床の運動の方がカロリー消費するんじゃないか?」
「なにそれ、寝床の運動って」
幸祐は笪也の言い様にケラケラ笑った。
「散歩はね、有酸素運動で全身運動なんだからね。で、その、あれは局部的だし」
「でも、お前は、あぁん、って可愛い声出して、有酸素運動してるだろ」
幸祐は、もうっ、と笪也の脇腹をつねると、夕飯の支度の続きをした。
食後は幸祐が言っていた通りに、いつもより長めの距離を歩いた。肩が触れるくらい寄り添ったり、手を繋いだり、辺りを見計らってのキスは何度しても幸祐はドキドキしていた。
騎乗位との交換条件で始めた散歩も、週の三日はすることができていた。笪也もズボンのアジャスターの位置が心持ち変わってきたように感じていた。
家に帰るとすぐに二人でシャワーを浴びるのも習慣になっていた。
以前、笪也の嫉妬で幸祐がシャワー後に目眩を起こしたが、幸祐はその翌日には、また一緒にシャワーをしたいと言った。
シャワーをネガティブなイメージにしたくないからと言い、散歩から帰るとすぐに、笪也の衣服を剥ぎ取るように脱がすとシャワーブースに連れ込んだ。そして二人で泡まみれで抱き合った。頭から熱い湯を浴びないよう注意するのは怠りなかった。
長めの散歩から帰ると、二人は早速シャワーブースに入った。
「ねぇねぇ、あのベンチのとこでキスした時、向こうから来たおばさん達に絶対見られたと思うんだけど」
「そうか?…暗がりだし、ヒソヒソ話しでもしてるって思ってんじゃないか」
「あぁ、ドキドキするのって、なんか楽しい」
幸祐は笪也に抱きつきながら逞しい背中を泡で撫でていた。すると笪也は幸祐のその手を後ろ手で掴んで、自分の尻の奥を触らせた。
「なぁ…俺のここ、触ったことないだろ」
笪也は幸祐の耳元で囁いた。
「うん…笪ちゃんにもあるんだよね。ここ…」
「当たり前だろ…」
幸祐は泡を纏わせて、そっと指先で触れてみた。笪也がいつも自分にするように襞の中に指を挿れ込むのは少し躊躇し、そこの周りを押し当てるように指を動かした。
以前、笪也が言った、今までのパートナーは年上だった、という話しを思い出した。笪也もその相手にしてもらっていたのだろうか、今、触らせようとしているのは、本当はしてほしいのだろうか、本人に訊くこともできないし、してほしいと言われても、今の自分では絶対無理だと思った。
笪也は幸祐の細い指が襞の周辺を弄るのを感じながら、幸祐のそこに指を挿れた。
「あっ…あん…笪ちゃん」
急に笪也の指先が自分の中に押し入ってきたことで、後孔の杞憂はすっ飛んでしまった。
「なんだよ…もっとしてほしいか」
幸祐は、やっぱり笪也はしたい方なんだと思い直すと、甘い声で言った。
「局部的運動はシャワーの後で…今日は時間がいっぱいあるんだから」
「じゃあ、今夜はお前の好きな俺の舌攻めをしてからお前が上に乗って、それから俺がお前に乗って、フルコースだ」
「言葉にすると、エロい…じゃあデザートはなに?」
「三分間のディープキス」
幸祐は、ふふっと笑うと、泡を流してシャワーを止めた。
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