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第10話 哀哭のはじまり(4)
その夜の夕飯の最中。
案の定、幸祐は達也に問い詰められた。
「何があったんだ?お前はまた明日にしか話さないのか?」
「ご飯が済んだら、言おうと思ってたよ…」
「お前は、すぐに顔に出るんだ。隠すならもう少し上手くやってくれ」
「だから…本当に話すつもりだったよ…でも、その内容がさ、食事中にするのはどうかと思ってさ…黙ってたんだよ」
「…一体何を話すんだ?グロい話しか?」
笪也は眉をひそめた。
「ううん…俺はグロくはないけど…でも、気持ち悪いって云う人もいる」
「さっぱりわからん…」
幸祐は、村中が引き出しの中のあの写真を見た時に言った、気持ち悪い、の言葉が耳に残っていた。
感じ方は人それぞれだし、頭の中ではもっと激しいことを想像できても、実際に眼で見てしまうと受け入れ難くなるのは仕方がないのだろう、と無理に思おうとした。
食後の後片付けも済まし、幸祐は笪也の横に椅子を移動させて、コーヒーが入ったマグカップを笪也に手渡した。
笪也は、さぁ、とばかりに、体を幸祐に向けた。
「…あのさ、たぶんね…その、イタズラなんだと思うんだけど…」
幸祐は笪也の太ももに手をのせた。
「朝、自分のデスクの引き出しを開けたらさ、裸の男が抱き合ってる写真が入っててね…」
「…?…裸の写真?」
「そう…素っ裸。で、抱き合うっていうか、その、フェラをしている写真」
「なんだよ、それ…」
笪也は、また眉をひそめた。
「でしょう?…だから、ご飯の時には言わなかったんだよ」
幸祐は、わかったでしょ、と言わんばかりの顔で笪也を見た。
「で、その写真を見たのはお前だけ?」
「ううん…引き出し開けた時に、村中さんもいてね…うわぁって騒いで、で、徳村さんも来てさ、三人で見て、すぐにシュレッダーにかけた」
幸祐は指先でシュレッダーにかける身振りをした。
「徳村さんがね、社内の誰かがした事には違いないんだから、しばらく注意して、引き出しは鍵をかけてって言うんだけど…そもそも何に注意したらいいのか、さっぱりだよ。村中さんは他にもストーカー的なことはされてないかって訊くしさ…ねぇ、誰がそんなバカみたいな事したと思う?…俺ならイタズラしてもいいとでも思われてんのかな…本当、気味悪いよ」
幸祐は笪也の肩に寄りかかった。そして、笪也の腕を掴んで自分の肩に回した。
心配するな、大丈夫だよ、と笪也は優しく慰めてくれるとばかり思っていたが、案に相違した。
「ふうん…お前は可愛い系男性社員のランク上位だからな…知らない間にどこかで狙われてたとか」
笪也は冷たく言った。
「もう…やな言い方」
幸祐は笪也を睨んだ。肩に置かれた笪也の手を取ると、手の甲を強めに噛んだ。
「痛っ」
「心配してくれないの?笪ちゃんは…ねぇ、何でそんな怖い顔してんの?」
口を尖らせてむくれる幸祐に笪也は更に突き放すように言った。
「そんな写真を見せるってことは、お前にしてほしいってことなんじゃないのか?…お前、鈍感だから、以前から何かあっても気付いてなかったんだろ?」
幸祐は不機嫌そうに言う笪也に堪らず言い返した。
「もう、笪ちゃん。どうして、そんな風にしか言えないの?…心配じゃないの?俺のこと」
「心配?…あぁ心配だよ。けどな、お前も脇が甘いんじゃないのか?…そんな写真を引き出しなんかに入れられて」
「じゃあさ、笪ちゃんは、俺が悪いって言うの?…俺はどうしてたらよかったんだよ…何で俺を責めるんだよ…訳わかんないよ」
笪也は腹を立てていた。誰かが幸祐を性的に見ていたと思うと、それだけでムカついた。そして、お気楽に甘えてくる幸祐にもムッとして、つい、嫌な言葉を並べてしまったのだった。
「ねぇ…」
「…悪かったよ」
笪也は泣きそうな顔の幸祐を見た。
「…だから、責めてるつもりはない。でもな、お前は…その…自分で思ってるよりも、周りはお前のことを可愛いって…そういう風に見てるんだから…誰にでも必要以上に絶対に、愛想よくするんじゃないぞ」
笪也はそう言うと、下唇を噛んで上目遣いで睨みつけている幸祐の頬を軽くつねった。
「お前が変態を満足させる対象にされたなんて思うだけで、俺は胸くそが悪いんだ」
笪也は吐き捨てるように言った。
「笪也ちゃん…」
幸祐は椅子から腰を上げると、笪也の膝の上に向き合うように跨って座った。
「…ねぇ、俺もちゃんと気を付けるから…そんな言い方しないでよ…ごめん、笪ちゃん」
笪也は、許しを請うように甘えた声で話す幸祐の顔をじっと見た。
幸祐も口を尖らせて、笪也をじっと見続けたが、何も言ってくれない笪也に根負けして、もうっ、と言って、笪也の首元に顔を寄せるとクスクスと笑い出した。
「笪ちゃん…機嫌直してよ…これからは誰にも笑顔は見せないし、ムスッとした顔で仕事するからさぁ…」
「何も、そこまでしろとは、言ってない」
幸祐は、笪也のその不機嫌になった理由が何となくわかった。また、いつものことなんだ、と思うと、ぶっきらぼうにボソッと言う笪也のことが、猛烈に愛しくなった。笪也の首に両腕を回してぎゅっと抱きしめた。
「笪ちゃん…大好きだよ…愛してる…」
幸祐は、まだ笑顔にならない笪也の唇にキスをした。いつもなら笪也がしそうな、ねじ込むように舌を入れる深いキスをした。ようやく笪也もそのキスに応えるように、幸祐の舌を吸い込んだ。
「あぁん…笪ちゃん…俺は笪ちゃんだけのものだよ」
「…あぁ、わかってるよ」
少し、ばつが悪そうに笪也は答えた。
幸祐は何度も愛の言葉を囁きながら笪也の首筋を唇で愛撫した。そして笪也の膝から滑り降りるように腰を下へずらし床に膝を着くと、笪也の股間に顔を埋めた。
「幸祐、お前…」
幸祐は、イタズラだとしてもあの写真の男達は俺達のリアルな姿だったよ、と笪也に伝えたかった。が、また余計なことを言って笪也の心を掻き乱したくないと思い、口を噤んだ。
そして、笪也の部屋着のスウェットパンツの腰辺りに指先を掛けて、引き下げようとした。
笪也は幸祐が今から何をしようとしているのか、すぐに分かった。幸祐の動きに加担するように腰を浮かせると、硬くなり始めたモノが露わになった。
幸祐は笪也の竿を持つと亀頭を音を立てながら食んだ。うっ、という笪也の声で幸祐は上を向いて笪也の顔を見た。
「ねぇ、笪ちゃん…もっと、うっとりした顔してよ」
突然の幸祐のリクエストに笪也は苦笑した。
「バーカ、できるか、急に…」
「もっと、気持ちよくさせてあげるから…」
笪也は幸祐の髪を掴んだ後、優しく頬を撫でた。
「いいか…この可愛い唇は俺だけのものだ。俺と飯と水以外は何も口に入れるんじゃないぞ」
「わかってるよ、そんなこと…やっぱり、笪ちゃんってば」
「うるさいっ…それ以上言うな」
幸祐は声にはならない程度に笑うと、もうすっかり勃ち上がっている笪也のモノをまた口の中に挿れ込み、上顎に擦り付けた。そして柔らかい舌で何度も舐め回した。
こんなにも愛しい行為を、気持ち悪いといわれた。
幸祐は可笑しくなって、咥えたまま、笑い出しそうになった。
「…どうした?」
笪也は訊いた。
幸祐は、何でもないよ、と言ったつもりだったが、頬張っているせいで、笪也にはモゴモゴとくぐもった声しか聞こえなかったのは、幸祐にはわからなかった。
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