95 / 96
第18話 誓い(1)
マスターのスパイス指南を受けて、スパイシーハムカツサンドも納得のいく物ができた。新店舗のショーケースに並べるその他のメニューも決まり、グランドオープンに向け、幸祐は益々意気込んでいた。
そんな頃、役所から、パートナーシップ宣誓の場所と時間の通知が店に届いた。
一週間ほど前に、二人で宣誓日を決めて役所に宣誓の予約をしていたのだった。
幸祐は、通知書が届いたことを笪也に早く知らせたくて、だいたいの仕事帰りの時間にシャッターを開けて表で待っていた。
遠くに笪也が歩いて来る姿を見つけると、幸祐は店の前で両手を大きく振った。その姿に気付いた笪也は、小走りで幸祐のもとに帰ってきた。
「笪ちゃん、おかえり。役所から届いたよ、パートナーシップ宣誓の通知」
幸祐は封書を笪也に見せた。
「そうか。お前の姿を見たら嬉しいことがあったんだって、すぐにわかったよ」
店の中に入ると、直ぐに開封した。二人の希望通りの日が書面に記されていた。笪也と幸祐の誕生日の数字を足した二十九日を二人のパートナーシップ記念日にした。
封書が届いた三日後の二十九日の午後、幸祐は店から、笪也は会社から、それぞれ宣誓場所の庁舎へと出向いた。正面玄関で落ち合い、通知書に記されていた会議室の前で二人して待った。程なくすると扉が開いて、部屋の中に入った。
幸祐は緊張して、笪也のスーツの袖口をぎゅっと掴んだ。笪也は幸祐の顔を覗き込むようにして見ると、優しく微笑んで、その手を繋ぎ直した。
二人は案内されたテーブルに着席し、必要書類を提出した。そして、パートナーシップ宣誓書にサインをした。
受領された宣誓書の写しが交付されると、幸祐はやっと緊張から解き放たれた様子だった。
「何もそこまで緊張しなくても」
「だって…もし、書類に不備とかあってさ、宣誓はできませんとか言われたらどうしようって…もう、融資の時より緊張したよ」
会議室を出ると、幸祐は廊下に設えている長椅子に座り込んでホッとして言った。笪也は、そんな幸祐を愛おしく見つめながら横に座った。
少しして落ち着いた幸祐は、交付された宣誓書をじっと見た。ジワジワと万感の思いが込み上げ、笪也の手を探り見つけると、ぎゅっと握った。そして、夢じゃないんだよね、と呟くように言った。笪也は、幸祐の耳元に顔を寄せると、そっと、幸祐、愛してるよ、と言い、繋いだその手に更に力を込めた。幸祐は、涙を潤ませながら笪也を見た。
「笪ちゃん…俺、幸せだよ」
幸祐のその声に、近くにいた役所職員は幸せそうな二人の様子を見て、微笑みながら、おめでとうございます、と祝福した。
庁舎を出ると、笪也は、少し歩こうか、と言った。幸祐は、うん、と笪也の手を取った。
自宅店まで少し距離があったが、幸祐も歩きたかった。
「幸せってさ…愛している人の心に寄り添うことなんだなって…宣誓書にサインして思ったよ」
「寄り添い、そして添い遂げる…か」
幸祐は静かに頷いた。
「これからも、もっともっと幸せになろうな…俺たち」
幸祐は、笪ちゃんハンカチ貸して、と言って、今にも涙が溢れそうな瞳を笪也に向けた。
ともだちにシェアしよう!

