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第5話 出会い 2
「…う」
ふいに意識が取り戻される。
目を閉じたまま上半身をもたげると体の節々が鈍く痛んだ。
朦朧とした視界でようやく前を見る。
「良かった。気がついたのね。」
鼻にツンと刺すような消毒液の匂い。
右足に巻かれた包帯に左腕についている点滴。
そして、目の前にいるナース姿の看護士。
ここが病院であるということをようやく理解した。
俺の意識が戻ったことを知った看護士は、すぐに主治医を連れて来た。
その主治医から説明されたことは三つ。
担任、つまり広尾先生から通報を受けた警察が家に駆けつけたこと。
両親が逮捕されたこと。
怪我が治るまでは俺はここで療養すること。
(…あの時、先生は気づいてたのか)
熱を測られた際、おそらく頭部の痣からバレてしまったのだろう。
「今日はもう遅いから、休みなさい。」
主治医はそう言って病室を後にする。
確かに時計は夜の10時半を指していた。
翌朝
真っ白な布団とシーツに差し込む朝の光。
自分が病院で寝ていたことに未だ実感が湧かない。
血圧や体温を計測されてすぐ、何人かの大人が次々に部屋を訪ねてきた。
『児童相談所』とやらの職員に警察。
俺の素性を調べようと色々なことを洗いざらいに聞いていく。
黙っていても側にいる看護士に迷惑をかけるだけだから質問には極力答えるようにはした。
「最後にカウンセラーの先生がご挨拶に来るからね。」
カウンセラー、確か学校にもそんな名前の職員がいたような気がする。
正直に言うと何も話したくはない。
本来、俺は死ななきゃいけない人間だから、話を聞いたところで無駄だ。
「はじめまして。」
部屋に入ってきたカウンセラーは二十代半ば、整った黒髪の男で『神崎 龍一』と名乗った。
案内をした主治医もさっきまで隣にいた看護士も次の仕事があるから、と部屋を出ていってるため今は二人だけだ。
「飲み物、ほうじ茶でいいか?」
静寂の中、最初の一言目はそれだった。
部屋の備え付けの電気ケトルで湯を沸かし、温かいお茶を入れてくれた。
マグカップに口をつけるとどこかホットするような味がする。
神崎先生は俺が飲み始めたのを見て、「少しは肩の力抜けたか?」と言った。
これまでの流れなら「暴力はいつから?」とか、「頼れる身内の人はいなかったの?」とかそんな質問をされると思ってたのに、神崎先生はそれ以上何も聞いてこなかった。
身構えていた体の力がすっと和らいでいく。
「また、明日来るから。」
最後にそう言い残してカウンセリングは終わった。
理由はよく分からないけど、この人ならまた来てもらってもいいと思えた。
(…紙袋、忘れ物か?)
テーブルに置かれた袋にそっと手を伸ばす。
『色々持ってきた。気に入ったのがあったら好きに使ってくれ。』
紙袋の中に入っていたのはいくつかの小説や漫画、
それに青いイヤホンと小型のオーディオプレーヤーだった。
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