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第6話 食事
「…俺、もう疲れちゃってさ。」
「…お前、まさか」
止めようとした時にはもう既に手遅れだった。
「…龍一、今までごめん。…じゃあな。」
時計の秒針が淡々と無機質な音を刻む。
時刻は朝6時、昨晩の記憶が曖昧なことからどうやら俺はデスクで寝落ちしていたようだ。
また先輩あたりに、「寝るなら仮眠室でちゃんと休め」と注意されるかもしれない。
突っ伏していたデスクから顔を上げ、眠気覚ましの缶コーヒーを買いに行く。
朝は冷え込む季節になり、ロビーにも風が吹いて少し肌寒い。
自販機にから出てきた飲料を一気に飲み干し、缶を捨てる。
(…にしても久しぶりに見たな。…あの夢も)
たった1人の親友に手を差し伸べてやれなかったこと。
10年以上がたった今でも俺を戒めるように夢という形で不定期に現れる。
7時を過ぎれば院内も慌ただしくなってくる。
朝礼で連絡事項を確認して、その後各業務へと移動。
患者の健康チェックや問診など、朝は特にやることが多い。
俺は、例の少年の担当があるのを理由にしばらく通常の仕事は午前中で切り上げることになっているので、普段は2病棟回っているところを1つ同僚に任せて昼休憩の準備に入った。
2人の昼食をトレーに乗せて、エレベーターで3階に下りる。
「…こんにちは」
俺が入ってきたことに気づいた少年は軽く会釈する。
その耳には青いイヤホンが付いていた。
テレビがあるとはいえ、それ以外の娯楽は病室にはない。
かと言って、足の怪我が回復するまでは部屋の外を出歩かせることはできないから、退屈だと思い昨日暇つぶしになりそうな物を色々持ってきたのだが、役に立っていたようで少し安心した。
「昼飯持ってきたから、食おうぜ。」
看護師の報告によると朝食は少量だが食べることはできたようで、点滴だけに頼ることは多分ないだろうということだった。
食事が取れることに越したことはない。
災害時や心が安定しないときにも、食事は安らぎを与えてくれると何処かで見聞きしたことがある。
「いただきます。」
少年は手を合わせた後、魚の煮付けを丁寧にほぐしながら口に運んでいく。
それを確認すると俺も味噌汁を一口すすった。
病院食なので味付けは若干薄めだが、出汁などで工夫されているからかあまり気にならない。
「美味いか?」
「…はい。人にご飯作ってもらったの、久しぶりなので。」
おそらく、料理だけでなく家事全般も全部一人でこなしていたのだろう。
指先は所々荒れていた。
「あの、神崎先生。1つ聞いてもいいですか?」
少年が初めて自分から質問をしようとしていた。
食べ終えた食器をトレーに戻し、耳を傾ける。
「…俺にここまで構う理由ってなんですか?」
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