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第11話 蘇る記憶と未来の否定
「ちゃんと話聞いてくれたのお兄さんが初めてかも。そんな本なんかつまんないってよく言われるから。」
「人の好みは違うからな。俺は面白いと思うけど。」
葵がそれを聞いて笑いかけてくれたのは結構印象に残っている。
孤高を気取っていても本当は寂しかったのだろうか。
興味がないならともかく、一方的につき離されるとなれば人はそれなりに傷つくものだ。
俺が小学生の頃だったか。
クラスで1番だったと意気揚々と母親にテストを見せようとしたら「だから何?」と冷たく突き返されたことがあった。
今思えば母は単に俺に関心が無かっただけなのだが、当時はもっと頑張れば褒めてもらえる、きっと自分に振り向いてくれると馬鹿みたいに信じていた。
こいつには俺と同じ思いはして欲しくない。
「凪、大丈夫か?さっきからずっと上の空だけど」
車椅子を押す音が止まる。葵との会話を思い出している内に部屋まで到着していたようだ。
「ちょっと、考え事してて」
「葵のことか?」
神崎先生に手伝って貰いながら、車椅子からベットへと体を移す。
やはり片足が動かないとなると、自力では動かせる範囲にどうしても制約がある。
「一人でも平気だって思っていても、自分のことを見て欲しかったんじゃないかって。…俺が子供の時、そうだったから。」
「俺からすれば、高校生なんてまだまだ子供だけどな。」
一応俺も後2年も経たない内に法律上では成人という扱いになる。
高校生が子供かどうかは分からないけど、少なくとも今みたいに人に頼ってばかりではいられない。
(…退院したら、どうなんだろ)
不意に疑問を抱いた。
入院している以上、いつかはこの病院を出て行く日が必ず来る。
バイトを掛け持ちでもすれば、なんとかやっていけるだろうか。
もし、あの家に帰ることになったら。
「…先生」
「どうした?」
「…いや、何でもない。」
先生を引き留める訳にはいかない。
これはあくまで俺自身の問題だ。
ただでさえ、最近は俺にかかりっきりで他の患者に時間を割けていないはずだから。
「人の人生を壊してまで、のうのうと生きるのは楽しいか?」
暗闇の中、鳴り響くのは父の声。
過去の光景が夢に写し出されるのはいつものこと、のはずだった。
「親不孝者。あのまま死んでればよかったのに。」
今までのことをどうこう言われるのはこの際どうでもいい。
だけど、これからを、未来を否定されるのは嫌だ。
生きてもいい、そう言ってくれた人がいるんだ。
「出来損ないは何も変われない。誰の役にも立たない。」
怖い、苦しい。
怯えるような感情が心を蝕む。
忘れたい記憶に否応なしに刷り込まれていく言葉の数々。
「…助けて」
誰もいなくなった病室に、伸ばされた手は誰にも受け取られないまま一方向へと向いていた。
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