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第43話 仲間

「お前らは、別々に来ないといけないルールでもあるのか?」 神崎先生が休みの日、呆れたように息を吐く俺の前には「恋愛講座の二回目だよ。」と返す湊がいる。 二人が同時に来たのは片手で数えられる程度、別に不仲という訳でもないのだが。 足が自由に動かせるようになった分、部屋の中を移動するぐらいは出来る。 電気ケトルで湯を沸かし、ティーパックを入れたカップに注ぐ。 補充してもらったハーブティーの香りはミントに似た爽やかな風味だ。 お茶請けとして貰ったクッキーも一緒に出してやる。 「アドバイスは参考にしてくれた?」 「素直に甘えてみたら?」と前回言っていたか。 結局、物に頼る形になったとはいえ、自分に正直になれたかもしれない。 そういう意味では湊の助言もあてにした。 「…プレゼント、作った。」 「まさか、愛の告白!?」 「…勝手に妄想を広げるな。」 クラスの女子が恋バナをするように「違うの?」と湊が口を尖らせる。 さっき部屋に持ち帰った花束、作業中だったせいかサイドテーブルに置きっぱなしになっていた。 「相変わらず器用だね。神崎さんも喜ぶよ。」 完成まではあと少し、残りは細かい装飾を足すぐらい。 ただ、渡すにしてもタイミングが見つからないのが問題だ。 「でも、ちゃんと手当はしなきゃダメだよ。」 カッターで軽く切ってしまった箇所に絆創膏を巻きつける。 出血量も多くないし、すぐに治るだろう。 「いいよね。二人が羨ましい。」 「…羨ましい?」 どこか含みのある言い方に疑問が浮かぶ。 今までの茶化した雰囲気とは打って変わった、真面目な顔。 その目はここには居ない誰かに向けられているようだ。 「それが本題か?」 クッキーを口に入れながら俺は聞く。 渇いた喉を冷めかけのハーブティーが潤した。 「僕にも好きな人がいる。単純だけど真っ直ぐないい子。でも、無茶ばっかりするから放っておけなくて。」 (…あいつのことだな。) 片思いの相手は、おそらく翔也。 「だから、一人で来たのか?」 「仲間に元気づけてもらおうと思って。」 「僕は何があっても凪の味方だから。」と湊は頷く。 不意打ちで恥ずかしいことを明言されて、こっちまで照れそうになるのを抑える。 恋をする者同士、案外世間は狭いのかもしれない。 「…協力はする。お前には借りもあるし。」 「ありがと。これ、貰ってくれる?」 祈願と刻印が入った小さな勾玉のキーホルダー、「お互いの成就を願って」とのことらしい。 付け焼き刃の気休め、根拠もない力が自然と漲る。 「翔也の場合、友情と恋愛の違いも分かってないだろうしな。」 「あはは、それは同感。」 一人じゃない、そんな安心感が心に飛来した。 「じゃあ、凪はどんな事されるとキュンとする?」 湊は意地の悪い笑みを浮かべ耳打ちする。 相手を意識してしまう行動、自分の醜態が悉く記憶から蘇った。 「参考資料に協力してね。」 数分前の言葉を撤回したい。 珍しく真面目な雰囲気に惑わされたのがいけなかった。 「神崎さんなら沢山あるでしょ。」 俺の願いも虚しく、『資料』という名目での事情聴取が行われてしまうのであった。

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