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第10話
「お水はここ。まめに飲むんだぞ、夕飯は俺が作るから、セディはゆっくりしていて」
お互い午後に休みを貰ったふたりは、オレンジ色のアパートに戻り、セドリックは早々にそう言ってベッドへと寝かしつけられた。
ハジメはダイニングテーブルでノートパソコンを開き、明日のガイドの予定をチェックしているようだ。
カタカタとキーを叩く音が部屋に響いている。
いつの間にかうとうととしてしまったらしい。もう夕方になったのだろう。教会の鐘が鳴ってセドリックは目を覚ました。
「良い匂い」
「ああ、セディの好きなアロス・コン・ガンデュレス(スペイン風ソースで味付けされた豚肉と豆の入ったイエローライス)を作った」
「本当? 嬉しい」
「栄養つけて、ぐっすり寝かさないとな」
ハジメはテーブルの上に料理を並べる。
「鱈のセレナータ(鱈と卵やトマトのサラダ)もあるぜ、ワインは? 赤でいいか?」
ハジメは椅子を引いてセドリックを食卓に着かせると、皿へ食事をサーブして、自分も席に着いた。
セドリックのグラスにワインをついで、自分のグラスにもつぐと、ハジメは片目をつむる。
「ボナペティ」
「メルシィボクゥ」
キッチンに置かれたハジメのラジオからはスポーツ・ニュースが流れている。
食事を始めたふたりはしばらく無言で、口を開いた時には、それは同時だった。
「「あの」」
ふたりは顔を上げ目を合わせた。
「あ、ごめんハジメ続けて」
「いや、セディこそ」
「ええと……」
セディがそこで口ごもったので、ハジメはフォークをテーブルに置くと、言った。
「呆れたろ?」
料理の残る皿に目を落とし、続ける。
「浮かれてた。セディが倒れるまで気づかないなんて」
「ハジメ」
「いつも船に乗ってたから、こんなふうに誰かと暮らしたことがなくて、セディのことつい……」
「嬉しいよ? ハジメに求められて」
「でも」
「僕の体力が無いばっかりに、ごめんね、ハジメ。僕もちゃんと拒めれば良かったんだけど、ハジメに触れられると、気持ちよくてつい流されちゃって」
「気持ちいい?」
「うん。大好きだよ、ハジメ」
満面の笑顔で答えられ、ハジメはセドリックを抱きしめたい衝動に駆られる。
――いや、ダメだ。抱きしめたら絶対にセディにキスして身体をまさぐって……
「はぁ~~~~~~~~」
長い吐息を吐いて、ハジメは平常心を取り戻した。
「ハジメ?」
「うん、俺も愛してる。セディ」
食事が終わり、食器を片つける。
することもないので、ふたりはベッドに寝そべり、ハジメのノートパソコンで古いフランス映画を楽しんだ。
けれど。
いつもならセドリックの髪を撫でるハジメの手は、胸の上に組まれたまま微動だにしない。
――触っちゃダメだ、触っちゃダメだ、触っちゃダメだ。
映画の話など頭の上を通り過ぎるばかりで、ハジメは必死に劣情を堪える。
「ハジメ、映画見てる?」
「ああ。いや……」
「もう寝る?」
「そうだな、そうするか。シャワー浴びてくるよ」
そう言ってハジメはベッドを抜け出し、バスルームへと向かった。
――三日……いや、一週間はセディを寝かさないと。
シャワーを水に切り替えて、頭から被る。
――いや、船に乗ってる間だって、こうはならなかったろう俺?
それが、単に訪れる性欲の処理を済ませるのと、好きな人を抱きたいという衝動の差であることにハジメは気がついてはいた。
「セディ……」
生ぬるい流水に身体をさらしながら、ハジメは自瀆する。
「は……ぁあ……は……ッ」
――手の中に吐き出したのなんていつぶりだ?
シャワーで手のひらの精液を洗い流し、ハジメは考えをあらためた。
――そうだ、その間ずっと、セディは堪えて俺を受け止めてくれたんだ。今度は俺が……。
ハジメは浴室を出ると、スペイン語の日常会話の本を読んでいたセディに声を掛けた。
「セディ。風呂、空いたぞ」
「うん。ありがと、ハジメ」
「先に寝るよ」
微笑みながらもセドリックを素通りしてハジメはベッドに向かう。
――いつもなら頬にキスが降りてくるのに。
セドリックは、ハジメが自制しているのを感じ、少し、寂しさを覚えた。
「!……つめた……」
服を脱いでセドリックがシャワーを捻ると、先ほどまでハジメが入っていたはずなのに、シャワーから出て来たのは湯ではなくただの水だった。
「ハジメ……」
セドリックは手早く身体を流し、寝室へと戻る。
「ねえ、ハジメ……」
シャワーを浴びたセドリックが寝室に戻ると、ハジメは何やらベッドへ屈み込みこちらに背を向けているところだった。
「何してるの?」
「ん? いや、しばらく俺、ダイニングで寝るわ」
そう言って枕とクッションを抱えて振り返る。
「何言ってるの、ダイニングなんて、ソファもないじゃない」
「テーブルの下で寝るから平気だ」
「そうじゃなくて」
「ごめんセディ」
微笑んでハジメはクッションを投げ出すと、ぽんとその大きな手をセディの頭に乗せる。
「俺って、自分でも吃驚するほど我慢が効かない男なんだ。別々の方がベッドも揺れないしきっとよく眠れる」
「ずっとじゃないんでしょう?」
「ああ、もちろん。セディが体力を回復するまでの間だけ」
「わかった」
「よかったセディ……」
理解を得たと思ったハジメを、セドリックが遮った。
「僕がテーブルの下で寝る」
「え……ええ?!」
「だってハジメは大きいし、テーブルの下なんて狭すぎるよ。それにここはハジメのおうちだよ?」
「だからって……」
ハジメは片手で顔を覆い天を仰ぐ。
「……セディ。じゃあ、一緒に寝るから、せめて俺の手を縛ってくれ」
「何言ってるの!」
「正装用のネクタイがあるからそれで」
クローゼットを開けるとハジメは一本のタイをとりだしてセドリックに手渡した。
「セディ。しばらくの間だけだから。な?」
「もう、ハジメは本当に……」
ため息をつくと、受け取ったタイでセドリックはハジメの手首を縛る。
「これでよし」
ハジメは満足そうに頷いて、ベッドへと横たわった。
「ごめんね、ハジメ」
「俺が悪いんだから、セディが気にすることはないよ、おやすみ」
「うん。おやすみ」
――なんて、セディを納得させたものの。
ハジメはセドリックの寝息を覗い、深く寝入った様子を見届けると、こっそりとベッドを抜け出した。
――こんなネクタイの戒めなんて。
苦笑しながら弛んだ手首のタイを解く。
――セディの肌の温もりに触れたら無意味なんだよなあ。
ハジメは静かにダイニングの椅子を引くと、当初の予定通りテーブルの下に潜り込んだ。
スマホにバイブでアラームを掛け、腕を枕に横になる。
四時間ほど寝て、早朝バイブ音で起きたハジメは、そのままダイニングで過ごした。
翌日、いつもの時間に目を覚ましたセドリックはベッドに姿がないハジメを呼んだ。
「ハジメ?」
「ああ、セディ。起きたか。先に目が覚めたから朝食作ってた」
「ネクタイは?」
「解けちまったみたいだな」
「それでも手を出さなかったなんて、偉いね、ハジメ。もう今夜は縛らなくても良いんじゃない?」
「いや、念のため縛ってくれ」
――さもないと、セディが寝入るまでに手を出しちまいそうだからな。
これを五日ほど繰り返した結果。
すっかり寝不足になっていたハジメは、その夜、睡魔に襲われ、ベッドを抜け出す事も出来ずにそのまま寝入ってしまっていた……。
「ん……」
深夜。
ハジメが寝返りを打てば、弛んだネクタイはいつものように解け落ち――伸ばした腕が、セドリックの身体に触れる。
「あ……? ハジメ?」
セドリックは抱きすくめられた感触に目を醒ました。
寝惚けているのか、ハジメは後ろからセドリックを抱きしめ、うなじに唇を押し当てている。
「んっ……ハジメ……ダメ……」
「セディ……」
セドリックの身体をまさぐるうちに徐々に覚醒したハジメは、気がつけば腕の中でとろとろになっているセドリックに驚愕する。
「え……あれ?」
セドリックは身につけていたTシャツがはだけ、ふーふーという呼吸に合わせて胸が上下しているのが夜目にも分かった。
「ハジメ……するの?」
――しまった。
「やっちまった……」
頭を抱え込むハジメにの腕に、セディがそっとキスをする。
「もう大丈夫だよ、僕、おかげでここ数日ちゃんと眠れたから」
「けど……」
「ハジメがこんなにしたんでしょ? 責任取って」
セドリックはハジメの手首を掴むと、身体をまさぐられて勃ち上がってしまった自分自身に触れさせる。
「あ……悪い、セディ」
ハジメはシーツに潜り込むと、セディの穿いていたハーフパンツのウエストを引っ張り、セディのそれを引き出した。
「ハジメ?」
ぷちゅ……っ
ハジメはセドリックの薔薇色の先端にくちづけすると、舌全体で根元から裏側をべったりと舐め上げる。
「ぁあん……っ」
じゅぷじゅぷと音を立ててしゃぶられ、セドリックの腰が浅く揺れた。
「ハジメぇ……」
やがておとずれた絶頂感に思わずハジメの頭を押さえ込み、セドリックはハジメの口の中へ射精する。
ぴゅるぴゅると吐き出された白濁を飲み込むと、ハジメはセドリックにぐいと顔を引き上げられた。
「もう、お馬鹿さん」
小さな口元を寄せてセドリックにキスをせがまれ、舌を絡め合いながらハジメはセドリックの身体をまさぐる。
セドリックは起ち上がった両乳首をくにくにとハジメの親指の腹でいじられ、与えられるディープキスにぞくぞくと快感が混みあがった。
「んっ……んふぅ……っ」
思わず身を震わせ、ハジメに抱きしめられる。
全身が苦甘い。
「はぁ……ハジメ……」
「セディ」
呼んで、ハジメはセディの首筋にキス。
「んっ……」
「可愛い」
次に鎖骨にキス。
「ぁ……」
「好きだ」
胸の先にキス。そのまま乳首を舐め上げられる。
「ぁんっ!」
「愛してる」
足を押し広げられハーフパンツの隙間から、下着ごとずらされて、セドリックはアナルにキスをされた。
ぬるり。
ハジメの尖った舌先が深紅の粘膜を分け入ってくる。
「ぁ、や、ハジメ……」
ちゅっ……ちゅく……っ。
濡れた音を立ててそこをハジメに可愛がられ、セドリックは頭を振ってもがいた。
「や、ハジメ、そこ……いや……っ」
ぬちゅ……っ
アナルに差し込まれた舌を引き抜かれ、安堵したのも束の間。
今度はハジメは自分のそそり立った熱を、先ほど下着ごとずらしたハーフパンツの隙間から、セドリックのアナルへと押し当てる。
「ああ、セディ……」
ハジメは逃げがちなセドリックのウエストを掴むと、引き寄せていきなり深く、胎内を突き上げた。
「あっ……ハジメっ……や…深……っ!」
目尻に涙を滲ませながら首を振るセドリックに構うことも出来ず、ハジメは幾度も幾度もセドリックを突き上げる。
「ぁっ………あっ…あんっ……ぁ…っ!」
「好きだ、セディ……」
「んっ……ハジ…メ……ぁっ…あぁっ!」
ぐぷぐぷと音を立てて貪られ、セドリックはハジメにしがみついた。
「あっ……ぁん…あっ……あっ……!」
「セディ、もう……出す……っ」
ハジメはセドリックを強く抱きしめると、火のように熱い身体を押しつけて、セドリックの奥深くへと激しく吐精する。
「ひ、ぁあっ!!!」
セドリックはハジメにしがみつくと、胎内の奥底まで注がれた精液を受け入れた。
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