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8 あなたとだから
「朔、付き合ってもらえるかな」
遅めの朝食の時間――既にブランチになってしまったのだが――一所はテーブルにチーズとハム、それからエリンギのガレットを置くと、そう言って席についた。
古良井は、大人しくジャガイモの冷製スープを引き寄せ、スプーンを手に取る。
「いいですよ?」
と答えて、それからスープを口に運んだ。
「今日、僕はオフだから、デートしよう」
「一所さんと?」
古良井の目が丸くなる。一所にそんなことを言われたのは、このマンションに転がり込んでから初めてのことだった。
「そう、食事を終えて家事を片付けたら、車で出よう」
「わかりました?」
◉
「じゃあ、行こうか。ハイ乗って」
バスケットを片手にした一所に促され、古良井が乗り込むと、車で向かったのは銀座だった。
「ここ? ですか?」
パーキングに車を入れると、一軒の呉服屋へ連れてこられ、古良井は首を傾げる。
一所が店員に声を掛けた。
「彼に合う浴衣を頼めるかな。そのまま出かけるから、着付けて下さい。足元も一所に誂えてもらえますかね」
「え」
困惑する古良井は店の奥へと連れて行かれる。
店員が二、三、見立てたうち、古良井は、濃紺の小千谷ちぢみの単衣を白の角帯で、あれよあれよという間に着付けられた。
「はじめさん、これ……」
揃えておかれた下駄を突っかけて古良井が戻ると、そこには既に黒の近江ちぢみを、茶色い柄物の角帯で着付けた一所が、待っている。
「ああ、いいね、似合ってる」
「子供の頃以来です、浴衣を着るのは」
「はは。よし、それでは次だ」
「次?」
「うん、次はちょっと遠いよ」
話ながら店を出て、車へと向かう。
「何処へ行くんですか?」
古良井の声に一所が振り返った。
「花火をね。見に行こうと思って」
「花火?」
「そう。花火」
グローを吸い付けながら、一所は説明する。
「観覧席を取ってあるんだ。そこのは椅子じゃなくて区画が切ってあって、河川敷の土手に寝転がって見れるから、きっと楽しいよ」
東銀座で高速に乗ると、いくつか川を越えた。
やがて、拘束を下りると、カーナビが目的地に着いたことを告げる。
ところがそこは。
「え、ここ、ホテルじゃないですか」
車を降りた古良井が怪訝な顔を見せても、一所は、うん、そうだよと、事も無げだ。
「車、会場付近はもう規制で入れないからここに置いていくんだ、帰りはラッシュだから、今夜はここに泊まるよ」
チェックインを済ませると、一所は部屋で、バスケットから虫除けスプレーを取り出して古良井に吹きかける。
「まだ時間があるから、屋台を冷やかしながら会場まで歩こう」
言って、一所は、かわいいね、と、古良井の襟元からのぞいた首筋にキスを落とした。
「あ♥」
不意を突かれて、首の弱い古良井が思わず声が出る。
それを面白がって、一所がちゅちゅと幾度もキスを繰り返したので、古良井はベッドへと座り込んだ。一所はキスをやめずに、隣に座り込む。
「ゃあ♥ だめです♥ はじめさん♥」
押さえるつもりなのか、しがみつきたいのか、古良井は腕を伸ばして、一所を抱きしめる。
――ああ、まったくかわいいね。
古良井の首筋から唇を離すと、一所は古良井の顎先を捕らえた。
「あ」
蕩けかけた古良井に、一所がくちづける。
「ん……♥ ん♥」
うなじを撫でられ、古良井は、快感に背を反らせた。
「だめ……♥ 浴衣、着崩れ……んっ♥」
お構いなしに古良井の唇を蹂躙していた一所は、ああ、そうだな、と、くちづけをやめ、ぎゅうと古良井を抱きしめる。
「ごめんごめん。あんまりかわいいから」
笑って身を離し、一所は立ち上がった。
「続きは帰ってから、な」
古良井のつむじにキスを落とし、一所はバスケットを手に取ると、そう言って振り返った。
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