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第2話 音楽
ミコトが仕事の時は、キースのスタジオでほとんど過ごしている凍夜と、趣味のようにホストをやっているミコトと。
部屋で凍夜に肩を抱かれてソファで聴く70年代の音楽。スピーカーにもこだわりがあるらしい。
JBL4312SE。
このマンションも防音はしっかりしている。音楽家や音大生のためのマンションだ。
凍夜はアップライトピアノを置いている。時々作曲するため。
「50年前の音楽が少しも古臭くない。
その当時、生まれていなかったのが
つくづく悔しいよ。」
凍夜はいつも言う。でもミコトは、凍夜に出会えた今が1番好きだ。
「歌いたいのはブルース。
B.B.キングやハウリン・ウルフみたいなブルース。
クラプトンだって好きだけど
彼はギターの方が目立ってるからな。」
「凍夜の声はブルースを歌うためには
ちょっときれいだね。」
「ディアボラでは、プレスリーとかリクエストされたな。」
「ああ、そうだね、甘い声で姫たちを魅了してた。」
ディアボラでは、たまに歌う凍夜に、みんながリクエストしてた。
辞める時、社長の円城寺が、歌だけでも歌いに来い、と惜しんでいた。
凍夜の首に抱きついて
「オレだけの凍夜でごめん。」
ミコトは、近くで見る凍夜にいつもドキドキしてしまう。凍夜はすぐにキスしてくる。くすぐったい。
「ミコトはディアボラで、お姉様たちのアイドルだな。浮気するなよ。」
「レオンが引き立ててくれるから、楽しいよ。
レオンのお客様はみんな、人生の大先輩ばかりだから。」
「確かに年配の女性が多かったな。
ちょっと安心だ。」
「マダムヒロコも来てくれる。
面白い話を聞かせてくれるよ。」
「彼女は若い頃、文豪の旦那と世界中を旅行してたからな。興味深い話をたくさん知っている。」
「凍夜は歌だけに専念するの?」
「まあ、作曲もしないとな。
オリジナルをいくつか。
キースのバンド次第だ。」
キースのスタジオになんとなく集まって、なんとなく音楽を聴く。
ドラムセットは防音の擁壁を作ってスペースを確保。そのままだとあまりにも大きい音なのだ。
タカヨシとテツは自分のアンプを運び込んだ。
キースがマイクを持ってきた。
「すげぇ!何だ、このマイク。
古臭くてカッコいい!」
面白がってキースが見つけてきた。
「SHURE55だ。」
モータウンで横並びにプラターズがハモってたようなマイク。デカい。
「みんなお揃いのスーツとか着て歌うか?」
「ロックじゃねぇなぁ。」
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