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第3話 キース
キースも凍夜と同じように1970年代の音楽が好きだ。基本はやはりブルースだろう。
スティービー・レイ・ヴォーン、もちろんクイーンのロジャーテーラーはキースの神だ。
同世代と、ちょっと違う価値観かもしれない。
凍夜とは気が合うけど、いわゆるZ世代とは少し違う気がする。カテゴライズする方がおかしいか。
ギターのタカヨシとベースのテツはやはりZ世代というのか、冷めている気がする。
立花さんがスタジオに来た。立花さんというのは、父の会社のエンジニア。ファティ(父親)の部下、というか技術者として特別な人だ。
キースより10才ほど年上か、キースにロックを教えたのも彼だ。立花さんもギタリスト。社員のタカヨシが仕事抜きでリスペクトしまくる人。
車も音楽も博識で、みんなの師匠だ。
「バンドやるんだな。ココなら思う存分音出し出来る。楽しみだな。」
「凍夜の歌、聞いてくださいよ。
ぶっ飛びますよ。」
「いつ会える?」
「午後には来ると思います。」
「じゃあ、一仕事して後で来るよ。」
そう言って立花さんは、キースにくちづけした。
「あっ。」
「ははは、またな。」
(また、揶揄われた。くそっ。)
立花さんはキースの長年の想い人なのだ。叶わぬ恋もずいぶん長い。
キースは高校生の頃、母が死んで凍夜と離れて東京に来た。父と暮らすため。仕事を手伝うため。そして父の片腕、立花さんと出会った。
その頃からの片想いだ。
立花さんは、何故か独身。キースが諦められないのは、それもある。時々ふざけてキスしてくれる。それをひたすら待ってしまうキース。
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