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第4話 凍夜が歌う

 午後も遅い時間。ミコトはもう出勤した。 「遅かったね。立花さんが凍夜の歌、聴きたいって。もう直ぐ来るよ。」 「ああ、今ミコトを送って来たんだ。」  マイクをセットしてピアノを触りながら声を出している凍夜。 「ウーッス。」 テツがエレキベースを抱えて入って来た。そして立花さんがタカヨシと一緒に入って来た。 「ショールームを社長に任せて、タカを拐ってきたよ。」 「ファテイなら仕事押し付けていいよ。 他にもスタッフがいるから大丈夫。」 「すいません。社長が行ってもいいって言ってくれたので、立花チーフと早上がりしちゃいました。」 「立花さん、彼が凍夜。会うの初めてかな?」 「そうだね。イケメンだ。キースの親友だって?」 「その言い方は恥ずかしい。中学生のお友達ごっこみたいだ。」 キースが抗議する。 「どうも。俺の歌、聞きます?」 凍夜は愛想の無い声で言う。 「伴奏はどうする?」 「適当にブルースコードでついてきてくれる? 軽く[フーチークーチーマン]から行くよ。」  あのマディ・ウォーターズの曲を歌い始める。ピアノをゆっくり弾きながら始まった。  凍夜のハスキーな切ない声が、女っ誑しのブルースを歌う。立花さんがギターを合わせてくれる。長いリフを挟んで曲は[ストーミィ・マンデー]に繋がる。ブルースコードは続く。  立花さんのギターがまるで泣いているようだ。 「ふぅーっ、ちょっと休憩。」 立花さんがうれしそうだ。、手を叩いてみんなを注目させる。 「みんな、こんなガチのブルースでいいのかい? 若い奴はヒップホップとか、じゃないのかい?」 「セッションするつもりじゃなかったよ。 今夜は凍夜の歌を聞くだけで。」 「でも気持ちいいな。このコードで延々と続けられそうだ。歌詞をつけよう。」

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