4 / 143
第4話 凍夜が歌う
午後も遅い時間。ミコトはもう出勤した。
「遅かったね。立花さんが凍夜の歌、聴きたいって。もう直ぐ来るよ。」
「ああ、今ミコトを送って来たんだ。」
マイクをセットしてピアノを触りながら声を出している凍夜。
「ウーッス。」
テツがエレキベースを抱えて入って来た。そして立花さんがタカヨシと一緒に入って来た。
「ショールームを社長に任せて、タカを拐ってきたよ。」
「ファテイなら仕事押し付けていいよ。
他にもスタッフがいるから大丈夫。」
「すいません。社長が行ってもいいって言ってくれたので、立花チーフと早上がりしちゃいました。」
「立花さん、彼が凍夜。会うの初めてかな?」
「そうだね。イケメンだ。キースの親友だって?」
「その言い方は恥ずかしい。中学生のお友達ごっこみたいだ。」
キースが抗議する。
「どうも。俺の歌、聞きます?」
凍夜は愛想の無い声で言う。
「伴奏はどうする?」
「適当にブルースコードでついてきてくれる?
軽く[フーチークーチーマン]から行くよ。」
あのマディ・ウォーターズの曲を歌い始める。ピアノをゆっくり弾きながら始まった。
凍夜のハスキーな切ない声が、女っ誑しのブルースを歌う。立花さんがギターを合わせてくれる。長いリフを挟んで曲は[ストーミィ・マンデー]に繋がる。ブルースコードは続く。
立花さんのギターがまるで泣いているようだ。
「ふぅーっ、ちょっと休憩。」
立花さんがうれしそうだ。、手を叩いてみんなを注目させる。
「みんな、こんなガチのブルースでいいのかい?
若い奴はヒップホップとか、じゃないのかい?」
「セッションするつもりじゃなかったよ。
今夜は凍夜の歌を聞くだけで。」
「でも気持ちいいな。このコードで延々と続けられそうだ。歌詞をつけよう。」
ともだちにシェアしよう!