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第7話 愛の夜?
(信じられないんだ。僕、立花さんに抱かれてる?)
ずっと憧れていた。どんな女の子と付き合っても、いつも心の恋人は立花さんだけ。憧れは憧れのまま、終わると思ってた。
そのうち、適当な女の子と結婚して、立花さんは、きっと僕の結婚式に出てくれるだろう。
父の友人だ。でも、忘れられなかった。
僕が高校生の頃、東京に来て中々馴染めなかった。母は亡くなり、妹のニーナはドイツのギムナジウム。全寮制の所。
凍夜とも離れてダンスだけが生きがいだった。
でも辞めてしまった。凍夜のせいじゃないけど、キッカケにはなった。
心細い寂しさを、立花さんの存在が埋めてくれた。全部僕の妄想だったけど、いつも抱かれる夢を見た。
仕事の時に垣間見る、立花さんの逞しい腕や胸、広い肩。
そして初めてキスしたんだ。
彼は何を考えていたのだろう?
一方、立花は覚悟していた。
ずっと見ていた。高校生の時から。
キース、可愛い奴。
父親の跡を継ぐために、一生懸命だ。
何でも吸収しようと、好奇心いっぱいに真っ直ぐな瞳で、見つめてくる。
ダンスをやっていたスレンダーで美しい身体。顔も美しい。ラファエロの彫像のようだ。
ドイツ人の父親の血を引いているが、父のような無骨さは無い。キースの父親はゲルマン民族そのものだ。キースは日本人の母の繊細な線の細さを持っている。女の子が放っておかないのも当然だった。いつも取り巻きのような女子が周りを囲んでいた。
童貞を卒業したか?
初めての経験を隠せない。
私に見抜かれて白状した初体験。
「ミク、僕、うまく出来なかった。」
私の名前、立花澳門(みくお)からその頃はミクと呼んでくれたキースの可愛い顔。
いつのまにか「立花さん」と他人行儀になった。
初体験を語る不安そうな顔に、キツいくちづけをした。それ以上ではない。それ以下でもない。
(私は衝動を押さえられるだろうか。)
くちづけだけで今に至る。我ながら蛇の生殺しだったこの数年。
今夜はキースが御膳立てしている事に気づいていたが、それに乗せられてやった。
(私のものにしたい。)
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