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第8話 愛の夜

 スタジオの大きなソファに並んで座っている。少し離れて。  キースはいつも聞いている柳ジョージをかけた。 「いいねぇ。 日本人で本当のブルースを歌う、数少ない人だ。」 「凍夜もこんな風に歌えたら、と思うんだ。」 「キースはもう私をミクって呼ばないんだね。」 「だって子供っぽいかなって思って。」 近くで見つめると言葉が出ない。 「タバコ吸ってもいいか?」 「はい、立花さんはタバコ吸うんですね。」 「一人の時だけなんだけど、今夜は吸いたくなったよ。不健康だな。」 そのゴツゴツした太い指がタバコを挟んでいる。エンジニアの荒れた指先がセクシーで、目のやり場に困る。  タバコの吸い方だけで惚れる。 音が消えた。音楽が終わったのか。 「何か、掛けますか?」 「キースは何か歌わないの?」  そう言って立花さんはスタンドのギターを取った。静かなメロディーを爪弾く。 「あ、ティアーズ・イン・ヘブン。」  立花さんが、味のあるセクシーな声でゆっくり歌った。クラプトンの想いが移る。  涙が出てくる。恥ずかしい。見つからないように拳をグウにして拭った。  音楽の力は凄い。  歌い終わって二人が見つめ合う。 「キースはもう私の事をミクって呼んでくれないのかい?」 「仕事を離れたら、ミクって呼ばせて。 でも子供扱いされてる?」 「そんな事はないよ。 キースは私のマイボーイじゃなくて もう、マイマンだ。」 ギターを置いて抱き寄せられた。 「マイマン?いつまでも弟分なんだ。」 「それじゃダメか?」  キースは立花さんの肩に抱きついた。 強く受け止めてキスを返してくれる。 「また、キスしておしまい?」 「童貞を卒業した時は、そうしたけどな。 もう、大人だ。抱いてもいいのか?」  飛びついてソファに押し倒した。 受け止めて、反転、上になった立花さん、じゃなかった、ミクオ。改めて深いくちづけをもらった。もう誰も止められない。  頭を抱えられて、何度も何度も角度を変えてキス。 「ミクオ、息が出来ないよ。」

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