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第11話 立花澳門(たちばなみくお)
壁のなくなったドイツで出会った。ゲオルグ・フォン・バイルシュミット。キースの父だ。
車好きでスーパーカーのディーラーとして働いていた。ガタイがよく、いかにもドイツ人という感じの、頭脳明晰で働き者のゲオルグのもとに、エンジニアとして若い男が雇われた。
「私は日本人です。」
ゲオルグは、エンジニアで売れないギター弾きのこの男が気に入った。
立花澳門(たちばなみくお)。
難しい字はよめなかった。妻が日本人だった事もあり、ゲオルグは直ぐに雇う事を決めた。
スーパーカーブームも去り、バブルも崩壊したミレニアム。2010年。
「日本にショールームをつくるよ。
落ち着いた大衆車を売ろう。」
まずはデモンストレーションを兼ねて、98年からのスーパーカーを並べた。
街中でのジェントルな走りと昔ながらの目を引くスーパーカーと、二律背反する部分でもあった。世の中ではSUVに人気が出てきた。ランボルギーニ・ウルス。そしてこれからは電気自動車の時代になるだろう。
時代の波は押し寄せる。そんなにたくさん売れるわけもない派手なスーパーカーも、熱心なファンは多い。
ミクオは、エンジニアとしての経験も凄いが、何よりランボルギーニを愛して来た。
だから、そのオーナーを大事にする。ミクオにしか点検させない、という顧客も多い。
「凄いお客さんが付いてるよ。
車検も彼のご指名が多いんだ。」
「ホストクラブかよ。」
仕事中もこんな話が出る。
いつもは奥の整備工場にいるミクオに、この頃はキースが入り浸りだ。
ミクオの汚れたツナギが色っぽい。キースは抱きしめてもらいたい。こんな事を思っているのは、キースだけかと思っていたが、強力なライバルが出現か?
「ミクオ、この頃冷たいんじゃない?」
凄く綺麗な女の人が、ウルス・ペルフォルマンテから降りて来た。
ランボルギーニのスーパーSUV。
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