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第15話 富沢京子
キースはミクオとキャバクラのママだという京子さんを見ていた。
ミコトが
「キース、大丈夫?
あの人、キースの所のエンジニアだよね。
ギターのめっちゃ上手な。」
凍夜も
「そうだ、俺の歌、気に入ったって言ってくれた。」
一緒にいるのは奥さんか?と聞かれるほど二人は長年連れ添った夫婦のような雰囲気がある。
円城寺がこちらを気にしているが、凍夜は目を合わせないようにした。キースが元気を無くしたのがわかったから。
でも立花さんの方から声をかけてきた。
(ほっといてくれよ。
俺はキースの味方なんだよ。)
「今日は行く先々で遭遇するねぇ。
何か歌ってよ、この彼女と一緒に。」
「冗談でしょ、歌えませんよ。
お姉さん、歌ってくださいよ。
凄いシャウトしてたじゃん。」
凍夜は露悪的な言葉を選んで、宣戦布告した。
凍夜らしくない。これ以上、キースの傷ついた顔を見たくないのだ。
ミコトがオロオロして
「じやあ凍夜とキースは、ダンスしてよ。」
余計な事を言ってしまう。
「女の子呼ぼうか?
凍夜くん、ウチの店ではあなた超有名人よ。」
凍夜はアンジーの嬢、ほとんどに手をつけた過去がある。今となっては黒歴史だ。
「アンジーのママなんですね。お会いするのは初めてだ。俺の記録更新に如何ですか、今夜。」
凍夜は恐るべき事を言っている。
意味深な笑顔を向けて京子ママは
「私とセックス、する?
ミクオ、どうしたらいいかしら?」
立花に丸投げか。みんなが固唾を飲んで見ている。
「ははは、凍夜は誤解したな。キースも、だ。
私とこの女(ひと)は、ただの友達だ。」
凍夜たちに向かって、
「私は今、愛する人がいる。
何年もかかってやっと結ばれた、大切な人なんだ。昔、この京子と結婚していた事がある。
でも、別れてもう随分になる。」
「誤解されそうね。私銀座でホステスをやっていた時、ヤクザの幹部に纏わりつかれて、ミクオが話を付けてくれたことがあるの。
今も昔も、私ってバカ目立ちするじゃない。
それでヤクザの前でキチンと嫁にするから手を出すな、って言ってくれたのよ。」
もちろん千里ママと藤尾さんの力があった。
ミクオはいくら強面でも、堅気なのだ。
「愛し合っていたのでしょう?」
「あ、ゲオルグの息子さんね。キースくん。
安心して。この人は女を抱かないから。」
「えっ?」
みんなの息を呑む声が聞こえた気がした。
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