16 / 143

第16話 いつになったらバンドやるんだよ

 テツはベースの音が好きだ。自分のベースの音が。  ラリー・グラハムのスラップ奏法。スライ&ファミリーストーンも好きだ。  もちろんジョン・ディーコンのクイーン。 ブラックサバスのギーザー・バトラー。自分とは違うけどオカルティックなのは興味深い。  レッド・ツェッペリンのジョンジー、ジョン・ポール・ジョーンズ。  イエスのクリス・スクワイア。そしてクリーム、ジャック、ブルース。クラプトンのギターを凌駕する存在感。まだまだリスペクトするベーシストは、いる。  100人いたら100人分の正論がある。様々なジャンルの正論。  今は一台のパソコンですら、マルチな録音が可能な時代。24才のテツが70年代のロック、と言ってもピンと来ないだろう。2000年生まれだ。  一人でやってきた。孤独にやってきた。曲を作るのにバンドメンバーが集まって、仲良しごっこをやる必要は無い。  テツの曲にパーカッションを入れてくれるのは、会った事もない北海道の人。ネットで知り合った。  パソコンがあれば一人でも出来る。SNSに面白がって、一昔前のようなメン募(メンバー募集)をかけて見た。  冷やかしもあるけど、ノリのいい返信もある。リミックスは楽しい。  そんな時たまたま、中高一貫校の同級生だったタカヨシに誘われて、この六本木のスタジオに来た。 「スゲェな、個人でこんなスタジオ持ってるなんて、金持ちのボンボンか?」 「ランボルギーニのショールームの人。 オレ、自動車整備の勉強しながら、ギターも離さなかっただろ。  このスタジオの人は元ダンサー志望だったけど、ドラムも凄いんだ。」 「見たらわかるよ。 ここはラディックのシルバースパークルが鎮座している神殿だ。」 「でも、パソコンでなんでもできる時代に、変わってるな。オレもだけど。」 「プログレ、プログレッシブ・ロックがやりたいんだ。革新的で壮大で長尺で、物語のある音楽。」 「それもアナログで、だろ?」 「そうそうあの立花さんなら、わかってくれる世代かな?」 「リアルタイムで知るわけないけど、知り合いがいそうだね。」

ともだちにシェアしよう!