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第16話 いつになったらバンドやるんだよ
テツはベースの音が好きだ。自分のベースの音が。
ラリー・グラハムのスラップ奏法。スライ&ファミリーストーンも好きだ。
もちろんジョン・ディーコンのクイーン。
ブラックサバスのギーザー・バトラー。自分とは違うけどオカルティックなのは興味深い。
レッド・ツェッペリンのジョンジー、ジョン・ポール・ジョーンズ。
イエスのクリス・スクワイア。そしてクリーム、ジャック、ブルース。クラプトンのギターを凌駕する存在感。まだまだリスペクトするベーシストは、いる。
100人いたら100人分の正論がある。様々なジャンルの正論。
今は一台のパソコンですら、マルチな録音が可能な時代。24才のテツが70年代のロック、と言ってもピンと来ないだろう。2000年生まれだ。
一人でやってきた。孤独にやってきた。曲を作るのにバンドメンバーが集まって、仲良しごっこをやる必要は無い。
テツの曲にパーカッションを入れてくれるのは、会った事もない北海道の人。ネットで知り合った。
パソコンがあれば一人でも出来る。SNSに面白がって、一昔前のようなメン募(メンバー募集)をかけて見た。
冷やかしもあるけど、ノリのいい返信もある。リミックスは楽しい。
そんな時たまたま、中高一貫校の同級生だったタカヨシに誘われて、この六本木のスタジオに来た。
「スゲェな、個人でこんなスタジオ持ってるなんて、金持ちのボンボンか?」
「ランボルギーニのショールームの人。
オレ、自動車整備の勉強しながら、ギターも離さなかっただろ。
このスタジオの人は元ダンサー志望だったけど、ドラムも凄いんだ。」
「見たらわかるよ。
ここはラディックのシルバースパークルが鎮座している神殿だ。」
「でも、パソコンでなんでもできる時代に、変わってるな。オレもだけど。」
「プログレ、プログレッシブ・ロックがやりたいんだ。革新的で壮大で長尺で、物語のある音楽。」
「それもアナログで、だろ?」
「そうそうあの立花さんなら、わかってくれる世代かな?」
「リアルタイムで知るわけないけど、知り合いがいそうだね。」
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