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第17話 ブルース

 スタジオにそれぞれが好きに入れるようにキースが鍵を渡してくれた。  時間があるとここに来る。誰かがいるとセッションが始まる。  隣の部屋はキースの私室だから、間のドアは開けない暗黙の了解がある。プライベートは不可侵だ。  みんなが通ってくる。時間もさまざまだ。  深夜でも音が出せるし、ドアを閉めればそれは自由だ。  そして立花とキースが一緒にいる事も暗黙の了解になっている。同性のカップルだという事も。  キースのスペースは一応生活必需品はコンパクトに纏まっている。二人はココから出勤する事も増えた。  ミクオがキースの顔を触る。無骨な手で目の下のホクロを触っている。 「泣きボクロだね。色っぽい。」 そこにくちづけする。髪を撫でて 「この金髪は染めてるの?」 「そう目が青いから、金髪がいいかなって。」  目をじっと見て 「おまえの目は、青よりグレーに近いな。 サングラスは必需品だろ。」 「うん、金髪は嫌い?」  膝に抱きとられて、髪にキス。 正面を向いて見つめる。 「私の気持ちをわかってくれたかい? おまえだけを見つめていたんだ。」 「ミクオって何才なの?」 「そんな事も知らなかったのか? もう直ぐ40才だ。キースより10才上だ。」 キースは首に抱きついて 「ふふ、ちょうどいいね。」 「ミクオはブルースが好きだって言ってたね。」 「そう昔のゆっくりしたブルース。 ロックだってジャズだってみんなブルースから始まった。カテゴライズはいらないだろう。」 「京子さんが歌いそうな女性ボーカルは?」 「まあ、そうだね。 私はニーナ・シモンが好きだ。あの声。」 「僕の妹の名前もニーナって言うんだ。 ガキの頃は凍夜と仲良しだったな。」 「おまえの妹か。会ってみたいな。」 「その内帰ってくるよ。今はスイスにいる。」

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