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第20話 ホーン

「ミコトに何があったんだ?」  テツが不思議そうに聞いてくる。 「もう,解決した過去の事だよ。か、こ!」 「なんか訳ありなのか?」  テツはミコトの顔をきちんと見るのは初めてのような気がした。 (こいつ、こんな可愛い顔してたんだ。)  思わずマジマジと見てしまった。 タカヨシはテツと昔からの知り合いだ。中高一貫校の同級生だった。  テツがベース以外に興味を持つのは珍しい。 「ミコトが歌詞を書いたのか? 実体験でも無いだろう?  ボヘミアン・ラプソディみたいかな?」 「凍夜の曲がいいんだ。綺麗なメロディで。 歌詞の不穏な空気とミスマッチで、さ。」  キースも意外そうな顔だ。 「ミクオはどう思う?」 「アレンジ次第だな。」  凍夜が配った楽譜を見ながら、 「スコアを作るよ。各パートの。 音出しして見て。」  タカヨシが、 「あの、もう一人、ホーンが欲しいなって思ってるんだけど。」 「誰かいる?」 テツが答えた。 「俺とタカヨシの先輩がいるんだ。 吹奏楽部の部長だった人。2個上だ。」 「サックスやってた人で、 俺たちは軽音部だったから よく一緒にセッションとかやって、仲良かった。 声かけてもいいかな?」  数日後、松崎秀樹、通称松ちゃんと顔合わせする事になった。  タカヨシとテツが24才だから、松ちゃんが26才だという。 「こんにちは。」  サックスを抱えてやって来たのは長身で美形のスマートな男だった。  抱えているのはテナーのようだ。彼が音を出した。腹に響くいい音。テナーの重低音。 「いきなりテナーで凄いな。 いつもテナーですか?」  ミクオの質問に 「いや、アルトが多いかな? 爆音でやるって言うから、これを持って来た。」 「いいねぇ、ホーンが入るとまた、 一味違う壮大さがあるよ。」 ミクオが立って握手を求めた。 松ちゃんを認めた、大人の対応だ。 「みんな、これやってみるか?」 松ちゃんにも楽譜を手渡す。  ミコトが 「まだ、歌詞が半端ですよね。 直してきます。」  不安そうなミコトを守るように凍夜が肩を抱いて離さない。 「松ちゃんは何やってる人? プロの演奏家じゃないよね。」 「ま、色々だけど。主にトラックドライバー。 あとネット配信してる。演奏動画を。」 「えっ?ユーチューバー?」 「いや、ま、少しだけ、ね。」 「みんな若いなぁ。 凍夜とキースは30才か。」 「まだ29才だよ。」 「はは、大して変わらないな。  ミコトは23才だったか? 私が一人、おじさんだ。40才だ。」  ミクオの言葉にみんな気まずい笑いを浮かべた。 「音楽性が違うかもしれないが、やってみよう。 よろしく。」

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