22 / 143
第22話 スタジオ
ミクオがみんなに聞いている。
「これから何がやりたいんだ?
プロデビューなのか?」
テツとタカヨシが顔を見合わせた。
「俺は70年代のロックを聴いて、ああ、こんなのがやりたいって思ったよ。」
テツがベースを持ち出してアンプに繋いだ。腹に響くベースの低音。
タカヨシも自分のギターを弾き始めた。タカヨシは超絶速弾きを練習中だ。
「上手いなぁ。タカはジェフベックが好きなんだろ。」
ミクオが珍しくピアノの前に座ってゆっくり弾き始めた。
「あ、凍夜の曲。」
ピアノが、短かった曲を重ねて、重厚さ、を増している。途中からドラマチックになる所は感動ものだ。
ミクオが楽譜を、楽器別に作ってくれた。
「みんなのパートを大まかに分けてスコアを作ったから、それぞれ自分用に変えて書き込んでくれ。」
「凄いな、ミクオさん忙しいのに、いつ作ったんだ?キース、大丈夫なのか?」
凍夜がマジで心配している。
「うん、僕もドラミングを叩き込まれたよ。
ミクオは厳しい先生だ。」
「で、これからの方向性は?」
凍夜は困った顔をしている。
「実はあまり有名になりたくないんだ。」
「気が早いな、まだ無名だよ。」
それでどこかに所属してCDデビューとかよりも、ライブハウスとか、小さい規模のフェスとかに飛び入り参加でもするのがいい、ということになった。
「デモCDとかは作った方がいい。
欲しい人もいるよな。」
キースのスタジオで録音出来る最低限の設備を入れてもらった。
「すごいな、こんなのがすぐに出来るなんて。」
キースの憧れは、今はないスイス、モントレーのマウンテンスタジオだ。
クイーンの最後のアルバムを作ったスタジオ。優秀なエンジニアのデビット・リチャーズがいた。今は解体されたがあんなスタジオが夢だった。
「ミクオ、デモ録音で作ってみよう。」
「おいおい、車のエンジニアと音楽では、全然違うんだぞ。」
「ミクオなら不可能はない、
と思ったんだけどなぁ。」
キースの真っ直ぐな瞳に苦笑いのミクオが抱き寄せてキスした。なんだか久しぶりな気がする。
「この頃忙しそうで、寂しかったよ。」
「みんなが帰ったらな。待ってろ。」
ギュッと手を握られて、キースは泣きそうになった。
ともだちにシェアしよう!