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第23話 初めてのライブ

 六本木の小さなライブハウスで、そこそこ売れているメインのバンドの、前座で演奏する事になった。  人目を引くアイキャッチーなバンド。 目立つつもりはないのだが、ボーカルは超イケメンの凍夜、ドラムスはまたまたイケメンのキース。  サックスの松ちゃんには、ネットでファンクラブが出来ている。告知を知って大勢が駆け付けた。  ギターのタカヨシとベースのテツには高校時代軽音部からの追っ掛けがいる。今でも熱狂的に推してくれている。  今日はミクオはギターを置いて、キーボードだ。ミクオのファンは派手だった。  あの京子ママがアンジーの嬢たちを引き連れてやって来たのだ。一際華やかな集団。  ミクオが京子ママに話をしている。 「今日のメインのバンドに花を持たせたい。 私たちのバンドが終わっても帰らないで、 最後まで見て行って欲しいんだ。  いきなり観客が減っては失礼だろ。」 後でミクオの気配りが功を奏したのは言うまでもない。 「今日はなんだか外が賑やかだな。店の周りに人が多い。並んでるなんて初めてだ。  俺たちのファンか?」 メインバンドのメンバーが不思議がっている。  開場した。小さなライブハウスはもう人でいっぱいだ。この店にこんなに客が入ったのは初めてだ。  始まった。前座のバンド。透明感のある凍夜の声が少しずつ聞こえてくる。静かなイントロダクション。  綺麗な声にみんなが静まり返って聴き耳を立てる。ベースがリズムを刻む。ギターが入る。  ミクオ直伝の泣きのギターがソロを取る。 もっと聴いていたい。それに重ねてサックスが入る。全体をまとめるキーボードが危なげなく入ってくる。  転調。ドラムが吠える。キースが金髪を振り乱して刻む渾身のリズム。  低音で支えるベースが揺るがない。速弾きのギターが絡む。サックスが包み込む。  凍夜の声が叫ぶ。 このライブハウスのミキサーが優秀だ。聴きたい音が際立つ。  曲が終わった。凍夜のMCが終わりを告げる。アンコールの声が絶えない。  前座がアンコール?メインのバンドが待っている。凍夜がアカペラで『フーチークーチーマン』 を歌い始めた。サックスが絶妙にサポートする。 渋いブルースで収めた。  小さい声で凍夜が囁いた。 「サックス、歌いやすかった。松ちゃんありがとう。」  メインのバンドにも大きな声援が聞こえる。 数曲終わって楽屋に帰ってきた。  バンドメンバーが 「こんなに客が入ったの初めてだな。 イイ女の集団がいたぜ。」 「可愛い女子も大勢いたよ、JKみたいな若い娘。俺たちのファンじゃないよな。」 メインバンドも興奮が冷めない。  今夜のライブハウスのお客さんのほとんどは凍夜たち目当てだったが、マナーのいい人たちで出演者はご機嫌だった。  ライブハウスのオーナーは大喜びで 「また、やってよ、君たち。 今度は前座じゃなくてメインでやれるよ。」 「ありがとうございます。 俺たちオリジナルが一曲しか無いんです。」 デモCDを渡すとオーナーは喜んで受け取った。 「君たちが初めてライブをやった店、として語り草になりそうだよ。」

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