32 / 143

第32話 観音寺夢子

ーー朝、目が覚めるのが怖い。 毎日変わらない日々。誰かがここから連れ出してくれるのを待ってる。 私、可愛いよね。健康な身体を持て余してる。 寂しい人、私に気づいて。ここにいるよ。 知らない世界だけど、誰かに抱かれたい。 人の温もりに触れ合いたい。心が叫んでる。 私は外が怖い。誰か外に連れ出して。 心から血が吹き出してる。 矛盾で心が引き裂かれて行く。ーー  膝を抱えてボカロの夢ちゃんが叫ぶ。暗い所で膝を抱えて剥き出しの足が見える。太ももの奥が見えそうで見えない。  サブは作画に夢中になっている。自分の孤独を夢子に乗せて寂しい夢子に共感して欲しい。  世界中の寂しい人、その寂しさを夢子が半分貰ってあげる。  そんな気持ちで夢子を動かす。露出の多い服を着せる。サブは自分のためだけに夢子のヌードを描く。でも、自分の作り出した夢子を自分の手で汚す事は出来ない。  サブにとって神聖で、大切な存在をこの世に生み出したのだ。妄想の世界でも夢子を犯す事は出来ない。サブの中では実在する希望なのだ。  思い入れは強い。 (夢ちゃんを幸せに出来るのは俺だけ。 いつも夢子の幸せを願ってるよ。)  ネットに配信してから、夢子を蹂躙するような書き込みが目に付く。 (殺す!見つけ出して必ず。) いつも不完全燃焼な気持ちを抱えて生きている。 (夢子もここから出して自由にしてあげないと可哀想だね。解き放つ方法が見つからないよ。) 解き放たれたいのはサブ自身なのに。  こうして一つの才能が、屈折したサイコパスになって行く。    ある日見つけた「メン募」の書き込み。 今時メンバー募集って、なんだコイツ?  サブは乗ってみた。この閉塞感から抜け出すには面白いかもしれない。 「テツって言うのか?ベースやってるんだ。 メンバーが欲しいんだって? 俺、楽器出来ないからな。パソコンで合成するしかないんだよ。でも連絡して見ようかな。」  いくつかの勝手にリミックスした楽曲を送った。すぐにメールが帰ってきて、いいね、と言っている。既成の曲のリミックスは違法だからネットに出せないけど、テツはいろんな曲を送って来た。自作のオリジナルだ、という。 「パッとしない曲ばかりだな。」 そろそろ飽きてきた所にちょっと毛色の変わった曲が届いた。歌詞も付いている。 「おもしれぇ。これ使えるな。 オリジナルなら俺のSNSに流してもいいだろ。」 軽い気持ちだった。

ともだちにシェアしよう!