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第34話 苦い麦

 サブは初めてミコトを見た。衝撃的だった。 (この人、男?) 「動画の夢ちゃんが素敵なんだ。 俺たちのライブとかの動画はない。それに代わって夢ちゃんファンからも凄い反応だよ。  凍夜の声がいいんだけど、ボカロの夢ちゃんも哀愁があっていいんだよ。」   反応が気になるのはミコトと凍夜だった。 ある意味実話なのだ。  サブは思い入れの多い夢子のイメージが具現化して目の前に現れた気がした。  ミコト。初めて見たミコトと言う人。マジマジと見つめてしまった。 「とりあえず申請は出そう。 タイトルを付けて、バンド名と作詞作曲者の名前も。」  話し合いの結果、バンド名は『凍てついた夜』に決まった。凍夜が嫌がる。  歌のタイトルは『苦い麦』。 これを正式にネットに流す。あのライブハウスのオーナーが宣伝してくれた。JASRACにも登録された。もう許可無く使えない。  今度は本格的にバズった。 サブはアニメーションのPVを任された。みんなに吊し上げになって追い出されてもいいはずなのに何故か許されている。  ミクオが 「サブの才能を活かせるように考えよう。」 (なんでこんなに簡単に俺を信じるんだよ。 危なっかしい奴らだなぁ。)  デカいモニター付きのPC設備が入った。使いやすいペンタブとか周辺機器も以前とは比べ物にならないくらい充実している。  バンド『凍てついた夜』は観音寺夢子が応援しているバンドとしてもファン層を増やしている。 PVには夢子が出ている事で再生回数も伸びている。 「『苦い麦』一曲しか無いのは情けないな。 作詞はサブもストックがありそうだし、テツは曲作ってるんだろ。」 「サブの所に送ったのがあるって。」 「使えるかな?」 「リミックスの天才がいるだろ。」 サブはこんなに人々の輪の中心になった事がない。 (ここの奴らはお人好しばかりだな。) 相変わらず、キースの部屋だった所に住み着いている。  引きこもりで暗い出口のない場所から、今のこんな劇的な変化なんて想像も出来なかった。  大らかなキースたちの暮らしに違和感を覚えていた。反感も。 (ふん、金持ち喧嘩せず、か。)

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