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第37話 MV
ネットで話題になっている。あのライブの動画をライブハウスのオーナーが編集してMVにしてくれた。
メンバーみんなが見て感動している。
「あの時、カメラ回してる人がいたんだね。」
「オーナーの息子さんだって。販売の許可を貰いたいって。」
「ああ、カッコよく撮れてる。息子さん上手だね。」
「映画学校に行ってるんだって。」
ネットに流した瞬間バズった。
「これ観音寺夢子が歌ってたやつじゃね?」
「これが本家だって。ボーカルが超イケメン!」
動画になった凍夜は、もうスターだった。
長身で引き締まった身体に、信じられないくらいの整った顔が乗っている。
そのハスキーな声。ボカロの合成した夢ちゃんの声も人気だったが、本家の楽曲はあっという間に話題をさらった。
「なにこれ!こんなバンドがいたの?」
「ドラムの人も素敵。外国人かな?
金髪で目が青い。」
そのビジュアルに火が付いた。
「どんな所が好きなの?」
「見てるだけでもうドキドキする。」
自称、推し集団が出来ている。
「あの、歌ってる時の顔。バネのような身体。
背が高くて、全部好き!」
「声がセクシー。ベッドに来いよ、って言われたい。」
スタジオが特定されてビルの入り口に出待ちの女の子がいたりするようになった。
「ここにはバンドの関係者は俺しか住んでないのになぁ。」
サブはがっかりした。サブのファンはネットの中だけだ。夢ちゃんの作者としてだけだ。
相変わらずいつも目立たない所にいる。
「俺も恋人が欲しいよ。ミコトみたいな。」
ミコトが一人でいると襲い掛かりそうになる。
少年時代のミコトはさぞかし可愛かった事だろう。ミコトを見ると良からぬ事を考えてしまう。
抱きしめたい。夢子では物足りない。実在する人間を抱きたい。
その危険性に早く気付くべきだった。
ある日スタジオの出待ちの女の子の中に、不似合いな中年の男がいた。
イヴォークを契約してあるパーキングに停めて、凍夜とミコトが歩いて来ると、その男がいた。
「キャーっ、凍夜だ!本物!」
女の子たちが盾になってくれて、ミコトの肩を抱いて急いで中に入った。エレベーターの中で肩で息をしているミコト。真っ青だ。
「見た?あの男だった。
女の子たちのおかげで助かった。」
「ここを見つけるなんて。」
スタジオにたどり着いてキースがいたのでホッとした。
サブに頼んで、自分たちのシングルCDにサインを入れて、入り口にいる女の子たちに届けて貰った。キチンと話も出来なかったお詫びとお礼だ。
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