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第41話 サイコパス

 聴取の場で男の独白が始まった。 ミコトは頑なに男、とだけ呼ぶ。 「あいつに固有名詞なんかいらない。 人格を与えたくない。」  勝手な男の言い分。懺悔にも似た独白。 ーー私は若い頃から小児性愛に取り憑かれていた。物心ついた頃から男の子を触りたい欲求があった。  中学生の頃、公園で遊んでいる男の子にイタズラした。トイレに連れ込んで下着を脱がせ性器を触る。ドキドキしてたまらない。男の子は5才くらいか、皮を被った性器が反応している。凄く興奮した。痴漢はやめられない。特に男の子の尻に異常な興奮をした。  学校には馴染めなかったが、なりふり構わず勉強した。成績だけが自分の存在価値のような気がしていた。カンニングもしたし、成績を上げるためには汚いこともやった。罪悪感は無かった。  一流と言われる大学に入ったが、友達は出来なかった。華やかな学生生活ではなかった。 「あの人、不気味。陰キャの代表って感じ。」  もちろん恋人なんか無縁だった。 そこそこの企業に就職した。同期にみんなから好かれる人気者がいた。大学時代にスポーツをやっていたという爽やかな好青年。いつも陽の当たる場所を歩いてきたような奴。  私が手に入れたいと思って叶わない場所にいる。猛烈に嫉妬した。事あるごとに足を引っ張る。汚い手を使ってでも、その男より上に行きたい。上司におもねってついに課長になった。 「課長、柳奥さんに当たりがキツイよね。」 「妬みじゃないの?彼、素敵だから。」 「課長は気持ち悪いよね。不気味。」 女子社員達が言っているのが聞こえてくる。  そいつの名前は柳奥(りゅうおく)と言った。育ちの良さそうな名前も気に入らない。 「おい、こんな所にスマホ置きっぱなしになってるぞ。客先から連絡が入ったら迅速に対応出来ないぞ。誰のだ?」  机に置き忘れているスマホを持ち上げた。待ち受け画面に家族の写真が使われていた。  誰もが羨む美男美女の夫婦になんとも可愛らしい少年が真ん中で笑っている。 「あ、課長すみません、僕のです。」 「柳奥くんの家族かな?奥さんが美人だ。 お子さんはいくつだね。」 「ああ、5才になった所です。」 「可愛いねぇ。」 「ありがとうございます。」  思えばあの時、初めて見た少年に魅入られたのだ。魔性の魅力を秘めた少年。  私はずっと独身だった。結婚相手が見つけられない。女子社員には気味悪がられている。 (柳奥を陥れたい。完膚なきまでに叩き潰したい。ああいう奴はずっと日の当たる所を歩いて来たのだろう。誰からも好かれて、恋愛に敗れたことなど無いのだろう。  私はああいう奴が大嫌いだ。挫折を味わえ!) 仕事の失敗を仕組んでやった。取引先に通す書類もわざと期限をずらして穴を空ける。悲しきサラリーマン。会社の損失は何より辛いはずだ。  出来る奴を蹴落とすのは、昔から得意なのだ。

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