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第44話 苦い麦

 出待ちのファンに刃物を持った男が襲いかかった事件はネットを炎上させた。  悪目立ちしてしまった。 「やあ、いろいろ訊かれて疲れたよ。」 キースとミクオが入ってきた。みんなスタジオに集まっている。 「俺たちも一通り呼ばれたよな。 ミコトが長かった。」 みんながミコトを見た。 「うん、オレの元義父だったから,警察にしつこく訊かれたよ。」  それでも、あの男の独白が事件をわかりやすくしたのは事実。 「小児性愛ってキモいなぁ。」 「あ、それは触れないでやって。」 凍夜がミコトを気遣う。 「マスコミの大好物をたくさん提供してやったもんな。スキャンダル?」 「スキャンダルになるのか?」 「バンドが注目を集めてるんだよ。 新曲出さないと。」 「サブがなんか歌詞作ってたよね。」  サブはミコトが子供の頃受けていた虐待に心が痛む。『苦い麦』の意味もわかると辛い。 「よし、楽器の練習しよう!」 タカヨシが言った。 「ミクオさん、ギター教えて。」  テツが曲作った、と言っている。 ーー明けない夜、眠るのが怖い。  眠れない夜。手探りで時刻を見る午前2時。  このまま世界は闇の中なんじゃないか。  そんな気がする。闇が何より怖い。  出口の無い暗闇に心が絡め取られて  抜け出せない。  あと数時間で陽が昇る。  やっとこの闇から解放される。  暗闇が怖いのに、朝はもっと怖い。  手を伸ばしても誰もいないのはわかっている。  いつからだろう。  陽の光に曝け出される絶望。  絶望だって?  ガキが使いたがる言葉。  絶望とか、愛とか。  君が寂しさを半分受け取ってくれるんだよね。  優しい人。  妄想が作り出した恋人。  眠れないの?大丈夫?  君は心配してくれるんだね。  大丈夫、だって君がいる。  いつか、地平に昇る朝日に  向き合える日が来るかもしれない。  だって君がいる。ーー 「サブの詩は相変わらず暗いなぁ。」 テツが言った。

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