45 / 143

第45話 新曲

 サブの詩にテツが曲をつけた。 ミクオのギターの爪弾きから静かに始まる、暗い旋律。中盤になって爆発したようなハードロックテイストに変わる。まさに70年代のロックだ。  間奏に入るギターのリフはタカヨシの真骨頂、練習していた速弾きだ。サウンドを支えるテツのベースの安定した低音。キースのドラムが激しさを増す。  ミクオの好きなZ・Z・トップの曲を思わせる泥臭さのハード・ブギに仕上がっている。  凍夜が歌って見る。ハスキーな声が静かに語り始める。中盤一気に爆音になるが負けない声を張る。マイクを持つ手に力が入る。マイクスタンドを持って歌う凍夜は、尊敬するフレディ・マーキュリーを意識しているようだ。  ダンスで鍛えたステージパフォーマンス。 「凍夜、カッコいい!広いステージでやってほしいな。」 松ちゃんのサキソフォンが絡む。いつも絶妙な入り方だ。歌い終わって凍夜が 「松ちゃん凄く歌いやすかった。 サックスの入り方が気持ちいい。 どこで覚えたの?」 「ははは、食えない頃、ストリップ劇場で、踊り子さんのバックで吹いてたんだ。  脱ぐタイミングで入る。ズレると脱げないって怒られる。そこで覚えたんだ。」 「え?俺、ストリッパーの歌い方だったんだ。」 「凍夜も脱いだら、女性ファンが増えるぜ。」  テツが無茶な事を言う。 (凍夜が誰かに取られちゃう!) ミコトはいつも不安だ。 「この詩、夢子ちゃんの事なの?」 ミコトが聞く。サブは赤くなって 「いや、この頃、思う事がたくさんあって頭がぐるぐるしてたんだよ。少し出口が見えて来た。」  サブは自分の恋愛対象が女性とは限らない事に気付いていた。 (なんでみんな自分をわかって欲しい、なんて思うんだろう?  自分が愛してる人に同じように愛して欲しいなんて。)  今まで自分の思いをぶつけるのは夢子だった。いつも受け止めてくれる存在。  辛い時も寂しい時も妄想の中の夢子にぶつけた。自分は二次元しか愛せない、と思っていた。 「この頃、サブの描く夢子ちゃんが少し変わって来たね。なんて言うか中性的になった。」  ネットのファンから指摘された。自分でもわかっている、作画が変わったのは。  いつも目で追ってしまう現実の人間がいる。ミコトから目が離せない。  頭の中だけで想像していた夢子が、人らしくなって来た。 ー夢子に命が吹き込まれたんだよ。 ー色っぽくなったんだ。 ー唇がリアルに誘ってるみたい。 ー前より成長してるんだ。 おおむね、ネットの評判は好意的だった。

ともだちにシェアしよう!