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第46話 サブ

 バンド『凍てついた夜』の新曲が話題になっている。 『明けない夜、眠るのが怖い』はヒットした。 オリコンチャートを駆け上がる。 「この曲、作詞はボカロの観音寺夢子の北島君なんだって!」  サブが注目を集め始めた。以前からコアなファンが付いていたが、バンド『凍てついた夜』の作詞担当だ、と注目が集まっている。  サブは自分に自信が待てなかった高校生の頃を思い出すと焦燥感に駆られる。  スタジオに住んでいることも気詰まりだ。 キースに訊いてみた。 「なんか、バンド有名になって、俺ここにいていいのかな?」 「なんか落ち着かない?」 「いや、ここがいいよ。馴染んでるし。」 (それにミコトにも会える。)  ネットの閲覧数も伸びている。楽曲も売れてサブにもそれなりの収入がある。もう自立出来るだろう。出ていかなければならないのか。 「ごめん、拘束しちゃってるかな、と思って。 サブの自由を奪ってる?」 「いや、そんな事はないよ。ここにいたい。」 キースは優しい。  サブはコミュニケーションが苦手だった。引きこもって絵を描いたり、詩を書いたり、お話を作るのが好きだった。いつも一人で。  一人の方が気楽だ。生身の人間をあまり知らない。親だけだ。親との関係は腐臭を放ち始めていた。閉塞感の中にいた。  理想通りに作り出した観音寺夢子。夢子は二次元の中から出てきてはくれないが、それで満足だった。  今、こんなに誰かを欲しいと思っている自分がわからない。  思い切って家を出てから、ものすごい変化があった。ロックバンドの作詞を手がけるなんて。  ネットでは結構有名人になった。でも、何かが足りない。  凍夜がミコトの肩を抱いてスタジオに入って来た。自分のものだと見せびらかすように見える。  心が闇に落ちる。ここに住んでいる事がいつしか拷問じみてきた。 「おはよう、オレこれから仕事なんだ。」 あのホストクラブに出勤なのか。  俺が恋人ならすぐに辞めさせる。心配じゃないのか? 「ミコト、仕事好きなの?」  立ち入ったことかと思ったが、聞いてみた。 「うん、オレお酒が好きだし、接客も好きなんだ。いつも凍夜にベッタリだと飽きられちゃうでしょ。凍夜につまらない奴だと思われないように。」  サブはなんだか泣きそうになった。 (可愛い奴。凍夜のために、だって。)  サブは自分に自信がない。特に容姿のことだ。 背はまあまあ高い。180cmギリギリある。顔は地味だと思う。いわゆる塩顔。髪を伸ばしてひとつに結んで、メガネをかけている。  痩せっぽちで筋肉はない。これは頑張れば何とかなるかな。  典型的なチー牛、オタク感丸出しだ。 ミコトにはあんなイケメンの彼氏がいる。イケメンなら勝負にならない。

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