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第53話 夢という娘
(男と寝るのなんか大した事じゃないよ。)
いつからだろう、気軽にセックスするようになったのは。夢は目立ちたかった。
有名な同人誌即売会でコスプレしたのが受けた。カメラ小僧たちにもてはやされて、キワどいカッコがエスカレートした。
レイヤーの中では有名だ。頼めばある程度脱いでくれる。そこそこ可愛い夢は人生で初めてモテた。人にチヤホヤされるのが快感だった。自分で衣装を作るのも楽しかった。
高校生の若い身体は男受けがいい。誰も夢の本当の心を見ようとはしなかった。
(ふん、いつかわかってくれる人に巡り会える。
誰かに大切に愛されたい。)
単純な思考の中に暗い思いが見え隠れする。高校生になって、みんなのたまり場だと言われるT横に行った。みんな訳ありの身の上を盛る。
目立ちたい夢はリストカットを始めた。家に帰って一人になると、たまらなく寂しい。カッターで手首を傷つけて見た。
(初めて手首にカッターの刃を当てたとき、手首の血管は刃から逃げてうまく切れなかった。
皮膚が切れただけでもの凄く痛かった。アタシは死にたいのにアタシの身体は生きようとしてる。)
自分が可哀想で両手で肩を抱きしめて泣いた。誰かにこうして抱きしめられたい。
ネットで観音寺夢子が
「寂しさの半分は私が受け取る。」
と歌う。本当にアタシの寂しさをわかってくれる人がいるの?
夢子の歌を作っている人に憧れた。
(まるでアタシの事をわかってる人みたい。)
T横に来る連中の中に、自称バンドをやっているっていう男がいた。中々顔が利く男。
「えっ?地元川口なんだ。アタシも。どこ中?
W中?先輩じゃん。」
先輩は結構モテている。女の子が群がってくる。タバコを吸う横顔がキマッている。
集まってくる女の子たちを出し抜いて、ホテルに誘った。
「俺、金ないよ。ホテル代出してくれる?」
夢はお小遣いを全部使った。冷静に考えたら情けない男だ。女に出させるなんて。T横に集まる女の子たちが恨めしそうに睨んでくる。
みんなが狙ってる男をモノにした事で有頂天になった。
「リスカやってんの?悩み多いんだ。」
男が手首に目を止めたので、夢はもっとたくさん傷を作ろう、と思った。
男は肩に情けない筋彫りのタトゥーがあった。
「入れ墨入れてんの?」
「ああ、まだ途中なんだ。金がなくなって。
ダセえよな。おまえ、なんか稼いでこいよ。」
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