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第55話 ラップ

「あーあ、とんだサブの初恋だったな。」  サブは少し大人になったかもしれない。苦い思いをした事で、他者に対する距離の取り方を考えさせられた。 (こんな俺を排除しないで仲間に入れてくれるメンバーたちに感謝だ。)  ネットに中途半端に流された曲は、サブの歌詞を大幅に広げて、ミクオの編曲で公開した。  凍夜の声が曲のイメージ通りだ。SNSで晒された先行の曲とは完成度が違う。プログレの壮大なものとは少し方向が違ってラップの入ったヒップホップだ。  今までのイメージを一新、今風のロックだ。  「サブのリリックが面白い。よく考えついたね。 早口で。」 「韻を踏むのは難しい。自然に出てくるように日常が修業だね。」 「俺、覚えるの大変だよ。ラップは作った人がやってよ。」  凍夜から文句が出た。慣れないラップにみんなは面白がっている。凍夜の肩にもたれて聞いているミコトが可愛い。 「どうした? ミコトおとなしいね。」 「うん、なんか夢ちゃん大丈夫かな? って思って。」  あれ以来音沙汰のない夢を心配している。  今日はタカヨシの彼女、春乃さんが来ている。 控え目で静かな女性だ。夕食を持って来てくれた。高校の時からの付き合いだから、長い。  タカヨシはベタ惚れで幸せそうだ。 「美味いな、春乃さんの筑前煮。鰤の照り焼きもある。きゅうりとワカメの酢の物とか、ネギ入りのだし巻き玉子が絶品だ。」 「ご飯が進むね。」 ミクオが絶賛する。男受けするメニューだと言って喜んでいる。  テツは昔からタカヨシと春乃さんを見て来た。 テツにとって二人は理想のカップルだ。  テツも恋人は春乃さんのような人がいいとずっと思っていたが、この頃少し変わって来た。ミコトが気になる。ミコトの可愛らしさから目が離せない。  サブも前からミコトが気になっていた。人を惹きつける魅力があるのは、人知れず苦労をしてきたからなのか。  その腕のリストカットの深くて多くの傷痕の事はメンバーみんなが知っている。  後片付けをして帰る事にした。今日はミコトはオフだ。 「春乃さん、ご馳走様でした。 今度お料理教えてくださいね。  オレ、目玉焼きしか出来ないんで。」 「こいつの目玉焼きは最高だよ。」 「凍夜だけだよ、そう言ってくれるのは。」 「はい、そこイチャイチャしない!」 テツに言われてしまった。

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