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第59話 ミクオ

「どうした?」 ミクオの家に二人でいる。  さっきからずっと、食卓の椅子に座ってキースはミクオの顔を見ている。  ミクオの家も慣れてきた。シンプルで趣味のいい家具が居心地を良くしている。  ミクオの作る料理が、男っぽくて豪快で、美味しい。 「ミクオはどんな人生を送って来たの?」 「ああ、キースと出会ったのは私が30才になった頃だったね。30才までに人生のほとんどを経験してきたよ。濃密な30年だった。」 「僕の知らないミクオがそこにいるんだ。」  キースは少し寂しくなる。 ミクオが来て、座っているキースの顎を持ち上げてくちづけする。僅かにタバコの匂い。  キースは首に抱きついて、ミクオを抱き寄せる。頭を抱えてキスを返す。  激しく舌が入ってくる。キースが抱きついて離さない。 「こら、仕事が出来なくなるよ。」    大きな食卓の半分にノートパソコンが置いてある。横にプリンタ。 (ここで楽譜を整理するんだね。 煙草を咥えて仕事に熱中しているミクオがたまらなく好きだ。仕事してる時は僕の事なんか忘れてるんだろうな。) そばにギタースタンドとコルグのキーボードがある。音を出しながらスコアを作っていく。 「ミクオは僕の事忘れて仕事するんだね。」 ミクオの手を取る。オイルで黒くなったゴツゴツした指を触る。整備士の顔も持っている。  繊細なギターを弾く指が、キースを愛してくれる。ミクオの膝に乗って囁く。 「ああ、僕ミクオが好き。」 「可愛らしくなってる。キースのこんな顔を独り占めしてファンに悪いな。」  二人の甘い生活。 キースは自分が男を愛するようになるなんて、今でも不思議だ。  男じゃなくてミクオに開発されたんだ。ずっとミクオが好きだったから。  10代の頃からずっと惹かれていた。ミクオは大人の空気を纏って、たまにハグしてくれた。 (どんな人生を過ごしてきたんだろう。 どんな恋人がいたの?)  キースだって高校生の頃はいつも女の子がいた。初めての経験をした時、アッサリとミクオにバレた。  笑ってキスしてくれた。キースはキスだけでなくもっと欲しかった。そんな自分を持て余した。 今、毎日ベッドで愛し合う。 (そう、これが欲しかった。ミクオに抱かれたいって、いつも思ってたんだ。) 「キース、風呂に入ろう。」  ミクオに呼ばれた。尻尾があったら振りまくっているところだ。

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