59 / 143
第59話 ミクオ
「どうした?」
ミクオの家に二人でいる。
さっきからずっと、食卓の椅子に座ってキースはミクオの顔を見ている。
ミクオの家も慣れてきた。シンプルで趣味のいい家具が居心地を良くしている。
ミクオの作る料理が、男っぽくて豪快で、美味しい。
「ミクオはどんな人生を送って来たの?」
「ああ、キースと出会ったのは私が30才になった頃だったね。30才までに人生のほとんどを経験してきたよ。濃密な30年だった。」
「僕の知らないミクオがそこにいるんだ。」
キースは少し寂しくなる。
ミクオが来て、座っているキースの顎を持ち上げてくちづけする。僅かにタバコの匂い。
キースは首に抱きついて、ミクオを抱き寄せる。頭を抱えてキスを返す。
激しく舌が入ってくる。キースが抱きついて離さない。
「こら、仕事が出来なくなるよ。」
大きな食卓の半分にノートパソコンが置いてある。横にプリンタ。
(ここで楽譜を整理するんだね。
煙草を咥えて仕事に熱中しているミクオがたまらなく好きだ。仕事してる時は僕の事なんか忘れてるんだろうな。)
そばにギタースタンドとコルグのキーボードがある。音を出しながらスコアを作っていく。
「ミクオは僕の事忘れて仕事するんだね。」
ミクオの手を取る。オイルで黒くなったゴツゴツした指を触る。整備士の顔も持っている。
繊細なギターを弾く指が、キースを愛してくれる。ミクオの膝に乗って囁く。
「ああ、僕ミクオが好き。」
「可愛らしくなってる。キースのこんな顔を独り占めしてファンに悪いな。」
二人の甘い生活。
キースは自分が男を愛するようになるなんて、今でも不思議だ。
男じゃなくてミクオに開発されたんだ。ずっとミクオが好きだったから。
10代の頃からずっと惹かれていた。ミクオは大人の空気を纏って、たまにハグしてくれた。
(どんな人生を過ごしてきたんだろう。
どんな恋人がいたの?)
キースだって高校生の頃はいつも女の子がいた。初めての経験をした時、アッサリとミクオにバレた。
笑ってキスしてくれた。キースはキスだけでなくもっと欲しかった。そんな自分を持て余した。
今、毎日ベッドで愛し合う。
(そう、これが欲しかった。ミクオに抱かれたいって、いつも思ってたんだ。)
「キース、風呂に入ろう。」
ミクオに呼ばれた。尻尾があったら振りまくっているところだ。
ともだちにシェアしよう!