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第61話 ミクオの過去

 キースはすっかり気持ちが萎えてしまった。楽しく遊ぶ気がしない。  ミコトがハラハラしている。 「なんか、シラケたな。 ミクオさん、秘密が多すぎる。」 凍夜が文句を言う。 「せっかくの夜を悪かったな。 私も驚いたんだよ。名都が日本に帰って来ているとは知らなかった。生きていたのも知らないんだ。」 「そんな危険な仕事してたの?」 「ボディガードをやってるって。 VIP席に誰が来てるんだろう?」  淳に聞いたら、あの藤尾集蔵が来てると言った。 「あ、銀座で京子の時に話を付けて貰った藤尾さん。」  ミクオは立ち上がって挨拶に行った。 「あの、ご無沙汰しています。立花澳門です。京子の件でお世話になりました。」  挨拶に行くと、奥に座っていた藤尾が立ち上がって握手を求めて来た。名都が、 「藤尾さん大丈夫。さっきハグした時、彼はなにも仕込んでいなかったから。」 (そういうわけか。さすが、名都、一流のボディガードだな。)  力強い握手を交わした。その落ち着きが彼をただものではない、と語っている。  名都がそこまで警戒するような危険がある事に驚いた。 「名都の知り合いと聞きました。 あなたも傭兵だった?国はどちらでしたか?」 「いえ、私はただのエンジニアで、最後はドイツでした。」 「今は車屋さんだよ。ランボルギーニの。」 「一台買うかな、ベンツは飽きただろ。」 「私は一介の自動車整備工ですから。 お気遣いなく。」  気まずい雰囲気になった。集蔵は気がついた。 立花という男は名都の元恋人だろう、と。  人を見る目は確かだ。名都も気まずそうにしている。 (私の勘は、外れない。こんな所で,名都の昔の男に出会うとは。そうか、ゲイか。  私とした事が、動揺してしまった。 見れば名都の好みそうな男だ。)  キースも気づいた。あの人はきっとミクオの過去を知っている。  社長の円城寺が飛んできた。 「凍夜、一曲歌ってくれよ。」 軽く声をかけて奥へ行った。  藤尾さんに平身低頭の様子だ。超の着く大物なのだ。ナンバーワンのレオンを付けている。    レオンの旦那の傑がやっている『バー高任』は藤尾さんの行きつけの店だ。レオンは日頃からよく知っている。ミコトも高任で見かけた事がある。 「箱庭か?世間は狭いな。」

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