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第63話 出会い
「私には、あまり思い出したくない過去がある。
朝、一緒にご飯を食べた仲間が夕食にはいなくなってる、という事が珍しくなかった。
海外協力隊で車の技術を活かしてエンジニアとしてアフガンに行った。やがてソ連は撤退したが、戦争の爪痕の残る所にエンジニアの仕事は多かった。そこで名都に出会ったんだ。」
深谷名都はアフガンからミャンマーに移動して傭兵になったらしい。何故、危険な仕事を選ぶのか。名都の考えはわからない。軍事オタクで昔から憧れていた、という。
一千人いれば傭兵になりたい、というのが一人くらいいる。しかし実際に戦うのは100万人に一人だ。戦争を知らない若者が憧れるようなカッコいい事ではない。銃の撃ち方も知らない日本人がいきなり戦闘の最前線に行かされる。
名都はパキスタンとアフガニスタンの国境の町ペシャールの反政府ゲリラに合流した。
名都は自衛隊に入って基本を学んだという。いわゆるキャリア組ではなく、実戦を経験することもなく物足りなさを抱えて傭兵に応募したそうだ。
「死にたいのか?」
名都に聞いたが笑って答えなかった。
エンジニアの仕事は多忙を極めた。反政府軍はお構いなしにこき使う。そんな時、過労でミクオは倒れた。野戦病院で見つけたミクオを名都は付きっきりで看病した。同じ日本人だ、といって。
日本を離れて危険な地域で病気になるのは辛い事だった。そばにいてくれた名都を好きになるのは当然の事だった。
キースはミクオの話を聞いてちょっと羨ましかった。
しかし戦闘に巻き込まれた話を聞くのは躊躇われた。
「恐ろしかった。私は戦闘区域から逃れた。
一般人に混じって逃げたんだ。」
そして名都とはそれっきり。ミクオは探し回った。知り合いのNGOの人から、日本人の傭兵が反政府ゲリラのスパイと間違われて酷い拷問を受けた、と聞いた。名都の事だと思いたくない。
わかる限りの知り合いに当たっても、日本人の傭兵の消息はわからなかった。
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