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第66話 ミクオとメイト
ほんの短い間だった。戦場という極限状態の中で確かめ合った愛だった。
死と隣り合わせの日常。そのスリリングな暮らしから抜け出せなくなってしまう。傭兵に応募してくる人間には、そんな奴もいた。
枕を高くして眠ることを望まない人間がいる。
そんな中で出会ってしまった。
「ミクオ、もう一度キスして。」
いつもくちづけで愛を確かめ合う。初めての経験に溺れてしまった。
その傷だらけの身体を抱きしめる。
「どんな生き方をしてきたんだ。
メイトは死に急いでいる。」
愛しさに身体を弄る。
「ミクオ、欲しいよ。ミクオが欲しい。」
このころ、メイトはミクオに抱いてもらう受け、だった。
今は藤尾が受けになっている。どこで入れ替わったのか。
「抱いていて。ミクオ、俺を離さないで。」
「もう隊に戻るなよ。ずっと私のそばにいろ。」
明日は前線へ送られる。情け容赦ない反政府ゲリラ。もうイデオロギーなんかどこかに消えた。
何が本当のことなのか、見えなくなっている。
少年が銃を構えている。何故撃つのか、なんて考えない。子供の頃からここは戦場だった。
銃を持てるようになったら、躊躇なく引き金を引く。
「パンって当たったら人は倒れるんだ。
早く撃たないと自分が撃たれる。
母さんも兄さんも撃たれた。
考えちゃダメだ。死ぬよ。」
少年兵に教えられた。
修理中の車の下からミクオが顔を出す。車の床には穴が空いている。
「なんとか、繋いだよ。これで動くだろ。」
オイルに汚れたミクオの顔がセクシーだ。
「直してくれてありがとう。」
にっこり笑って少年兵士が礼を言う。
大事なダットサントラックだ。ボロだがまだ乗れる。
修理出来る人間はここではみんなに大事にされる。ミクオはまだ優遇されている。
傭兵もベッドを確保してもらえた。
二人で過ごす時間は少ない。プライバシーなどない。
そんな状況での、刹那的な愛。苛酷な状況だから愛が募る。
次の日、メイトは帰って来なかった。
「ミクオ、逃げろ。もう直ぐ敵が来るよ。」
「メイトを知らないか?」
「ああ、誰か傭兵が連れて行かれた。
スパイだったんだ。」
「そんなはずはない!」
「逃げろ!日本人はやられるよ。」
トラックの荷台に飛び乗って、みんなに紛れて逃げた。
野戦病院が火に包まれるのを見た。
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