68 / 143
第68話 名都、出会い
「名都、教えてくれ、おまえの過去を。」
藤尾は自分の恋人を縛る男ではなかった。過去を詮索するような男ではなかったはずだ。自分が情けない。
名都によって男を知った。この年で溺れた。
今更ながら名都の過去が気になり出したのだ。
部屋でゆっくり過ごす事にも慣れた。名都の膝枕で話をする。大切なひととき。
多忙のなかでも、何とか時間を見つけては、愛を確かめる。
「集さん、俺の過去なんて楽しくないですよ。
傭兵なんて血なまぐさい事ばかりだ。」
いきなり抱きすくめられて訊かれた。
「おまえは、人を殺した事があるのか?」
「嫌なこと聞くなぁ。思い出したくない。
もちろんありますよ。」
「私はその極限状況を共に過ごした奴に嫉妬を覚えるよ。共に死線を越えて、愛が深まっただろう。」
普通に暮らしていれば、そんな状況を共有することはない。裏社会を牛耳っているとは言え、斬った張ったというのは滅多にない。
「名都はまだ若い。
私では満足出来なくなる時が来るな。」
「バカな事を。」
名都が集蔵に縋り付く。
「俺を棄てるんですか?」
「ちがうよ、おまえが私に飽きるんだ。」
泣きながら集蔵に抱きついてくる。
「酷いよ、集さん、そんな日は来ないよ。
権現誓った仲じゃないか!」
「そうだったな、家康公に叱られる。」
寝物語にポツポツ話をする名都。
「あの頃私は憤っていました。
弱者を食い物にする権力に。
世の中はそんな単純な構図ではないのに。
勧善懲悪なんて現実的ではない。」
その頃名都は、暴力で革命を起こせると考えていた。実際に戦場に行って、そのとんでもない間違いに気付く。暴力は暴力を加速させるだけ。
いつも西側諸国の思惑に乗せられるのは弱者。
豊める国の供給する武器が勝つに決まってる。
いつも実験場所は発展途上の国。裏で大国のいいように使われている。
「自分は弱者の味方のつもりで、傭兵に応募したんです。誰が弱者で、誰が強者か、もわからずに。」
庶民の味方でありたい、といつも思っているのに目の前で難民が増える。
爆撃されて家を失った人々が目の前で難民になっていく。
戦争をしに来ているのは無責任な他国の傭兵。
自分だった。
そんな自己矛盾の中で見つけた。
本気で役に立つ人がいた。あらゆるものを修理する技術を持った日本人。
人々を救うのは兵士ではない。
エンジニアだった。
ともだちにシェアしよう!