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第68話 名都、出会い

「名都、教えてくれ、おまえの過去を。」  藤尾は自分の恋人を縛る男ではなかった。過去を詮索するような男ではなかったはずだ。自分が情けない。  名都によって男を知った。この年で溺れた。 今更ながら名都の過去が気になり出したのだ。  部屋でゆっくり過ごす事にも慣れた。名都の膝枕で話をする。大切なひととき。  多忙のなかでも、何とか時間を見つけては、愛を確かめる。 「集さん、俺の過去なんて楽しくないですよ。 傭兵なんて血なまぐさい事ばかりだ。」  いきなり抱きすくめられて訊かれた。 「おまえは、人を殺した事があるのか?」 「嫌なこと聞くなぁ。思い出したくない。 もちろんありますよ。」 「私はその極限状況を共に過ごした奴に嫉妬を覚えるよ。共に死線を越えて、愛が深まっただろう。」  普通に暮らしていれば、そんな状況を共有することはない。裏社会を牛耳っているとは言え、斬った張ったというのは滅多にない。 「名都はまだ若い。 私では満足出来なくなる時が来るな。」 「バカな事を。」 名都が集蔵に縋り付く。 「俺を棄てるんですか?」 「ちがうよ、おまえが私に飽きるんだ。」  泣きながら集蔵に抱きついてくる。 「酷いよ、集さん、そんな日は来ないよ。 権現誓った仲じゃないか!」 「そうだったな、家康公に叱られる。」  寝物語にポツポツ話をする名都。 「あの頃私は憤っていました。 弱者を食い物にする権力に。  世の中はそんな単純な構図ではないのに。 勧善懲悪なんて現実的ではない。」  その頃名都は、暴力で革命を起こせると考えていた。実際に戦場に行って、そのとんでもない間違いに気付く。暴力は暴力を加速させるだけ。  いつも西側諸国の思惑に乗せられるのは弱者。 豊める国の供給する武器が勝つに決まってる。  いつも実験場所は発展途上の国。裏で大国のいいように使われている。 「自分は弱者の味方のつもりで、傭兵に応募したんです。誰が弱者で、誰が強者か、もわからずに。」  庶民の味方でありたい、といつも思っているのに目の前で難民が増える。  爆撃されて家を失った人々が目の前で難民になっていく。  戦争をしに来ているのは無責任な他国の傭兵。 自分だった。  そんな自己矛盾の中で見つけた。 本気で役に立つ人がいた。あらゆるものを修理する技術を持った日本人。  人々を救うのは兵士ではない。 エンジニアだった。

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