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第70話 招待状
意外な事に、様々な人に招待状は届いていた。
「会場はディアボラだって。
菫ちゃんがまた設えをガラッと変えるそうだ。
上条不動産の社長、上条菫はディアボラのあるこのビル丸ごとのオーナーでもある。テナントもいくつか持っている。ホストクラブのほかにも、キャバクラの『アンジー』のオーナーでもある。
ディアボラは季節によって内装を変える事で有名だ。テーマパークのようでいつも取材が入る。
今回は店は純和風、奥座敷が神社のようになった。藤尾集蔵と深谷名都の祝言を挙げるための、神前なのだ。
こういう神前の行事に慣れている桜会の片桐若頭に相談に乗ってもらった。
集蔵は何がしたいのか説明した。
「片桐さん、この前の披露は組長もご不在でしたので、ここらでケジメの祝言を挙げたいと思ってるんだが。」
片桐さんは快く話を聞いてくれた。
招待状を受け取った人々は困惑していた。
「凍夜、オレたちにも届いたけど・・
キースに聞いてみよう。」
ミコトは不思議な気がした。
(ゲイカップルの結婚式?
何着るんだろう?)
「キースから聞いたけど、お相手はミクオさんの元彼なんだって?」
「えっ?キース平気なの?」
「平気だろ、違う人と結婚するって言うんだから。」
何か、腑に落ちない。
招待状には祝言を挙げるときは内輪でという事で、その後の披露宴に来てください、とあった。
「そうだよね。何着て行こう。」
「披露宴には、バンドのメンバーとおまえとサブも呼ばれてるよ。」
祝言にはレオンと『バー高任』の傑さんも出席するらしい。
なんかパーティは楽しそうだ、とミコトは嬉しくなった。
凍夜の手を取って指輪を触る。
「凍夜は指輪、いつも人差し指にしてるね。
薬指はダメなの?」
「ああ、ファンの子たちが目ざといんだよ。
凍夜は結婚してるのかって。」
キースがライブの打ち上げでミクオさんにカムアウトされたから、しばらくはキースとミクオのゲイカップルの話題で持ちきりだった。
この頃やっと収まって来た所だった。
「それで、指輪は薬指にするな、って言われたんだ。」
最近芸能事務所に所属した『凍てついた夜』は
縛りが増えた。
事務所から馴染みのないマネージャーが付けられた。
「芸能界って嫌だなぁ。」
「ま、俺たちは染まらないようにしよう。」
みんなの意見は一致している。
「嫌な事は嫌だって言おう。」
「収入が安定するといいね。」
みんな呑気なものだった。
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