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第71話 銀座で衣装をつくる

 集まると結婚式の話で持ちきりだった。 「ねえ、カップルで行かなくてもいいんでしょ?」 お相手のいないサブとテツが不安そうに聞いた。  二人ともミコトが気になっているが、基本ゲイではない。 「この頃、ボカロの観音寺夢子がおとなしくなったって、ファンががっかりしてるよ。」  サブは夢ちゃんと別れてから、夢子に気持ちが入らない。女の子は怖い。 「ファンはたくさんいるのに、特定の彼女は出来ないんだね。」  テツも思うところがあった。松ちゃんが結婚してた事。しかもあの、みんなの憧れだったミカ先輩と、だ。羨ましい。 「どこにいるんだろう?俺の運命の人、は?」 「おい、みんな、MTR入れたぞ。」 ミクオの声に、バンドの事に気持ちが向いた。 「マルチ・トラック・レコーダーだ。 これで色んな事が出来るよ。」 サブが喜んでいる。 「俺、帰るよ。」 テツが元気なくベースを抱えて立ち上がった。  一人になりたい。招待状が届いてから、いつも自分の孤独と向き合っている。 「一人は寂しいな。」 周りがみんなカップルになっていく。取り残されたような気がする。 数日後、全員に招待状の返事を確認した。 「みんな出席でいいか? バンドとして行くのなら衣装を揃えようか?」  キースが言い出した。 「お揃いの衣装なんてロックじゃねえな。 ダサいよ。」 「そうだよね。じゃあテイストだけ揃えよう。 銀座に集合!」  凍夜の行きつけのあの『テーラー嘉穂』で衣装の相談をする事になった。  嘉穂氏は話のわかる仕立て屋で、精鋭の若い店員を付けてくれた。  彼は『凍てついた夜』のファンで、熱心にアドバイスしてくれる。 「タキシードを着崩すのはどうですか?」 「うん、カッコいい。」  スタイル画を目の前で描いていく。みんなノリノリで衣装作りは盛り上がった。  方向性を決めたら、生地選びも、あとは任せてみんなでお茶しに行く。 「ザギンだよ!俺はじめてだ。」 サブが浮かれている。  有名なS堂パーラーに行った。窓から並木通りが見える。街を歩く女性がみんな綺麗だ。  人目を引くイケメン集団が席を占めている。

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