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第73話 免疫がないぞ

 初めてメンバーで出かけた銀座で偶然が重なる出会いがあった。  いかに今まで誰かと出会う機会がなかったか。 「ひきこもりバンドだな。」  凍夜が自嘲めいた言葉をつぶやいた。 「ネットで何でも出来るから、ひきこもってしまうんだ。書を捨てよ街に出よう、だな。」  サブは思い切って名刺の娘に連絡してみた。 自分の連絡先を教えていなかったから。 (前回の失敗を思うと、少し怖いんだ。)  それでも、傷ついても恋がしたい。サブは決心していた。  テツはその後、キャバクラ『アンジー』に通い詰めている。 「ミクオさん、あの金貸して貰えませんか?」 事務所に直接は言いにくい。年上のミクオに頼った。キャバクラは金がかかる。  様子を知っているミクオは自分のポケットマネーから用立てた。 (金のかかる女に惚れたな。)  バンドは事務所からの給料制で、売れていないと少ない。売れても搾取は付きものだった。 「あーあ、売れるバンドを目指すか。」  不本意ながら方向が変わった。  金に無頓着なのは凍夜だけか? 凍夜は金の苦労をした事がない。愛するミコトに何でもしてやれる財力がある。ミコトは何も欲しがらない。質素な男だった。 「ミコト、予約が入ってたから待ってたよ。」 今日は久しぶりに代官山の美容室『タイニーアイアン』に来た。ヤマトの働く店だ。髪はいつもここ。  ヤマトはミコトの東京での親代わりだ。 ヤマトとタケルの前で、凍夜がミコトにプロポーズしてくれたのだった。忘れられない思い出だ。 「今日はどうする? マッシュっぽいのでいいの? カラーは?」  初めて来た時を思い出す。田舎から出てきて、何も知らなかったミコトを受け入れて大人にしてくれた。  ゲイのカップルのヤマトとタケルが、その素晴らしさを見せてくれた。勝手に覗いただけだけど。  何かあると帰って来いと言ってくれる。鍵をくれた。本当に親代わりだった。 「オレ、随分遠くに来たなぁって思うんだ。 数年前の事なのに。ありがと、ヤマト。」

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