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第75話 祝言

 その日ディアボラは厳戒態勢だった。楽しい事の好きな奥のご老人も今日は神妙な面持ちだ。  完全に身内だけの、奥座敷に宮方が作られ、古式に乗っ取った神前が整えられた。  神事を仕切るのは、あの須佐稔彦(すさなるひこ)だ。出雲の須佐神社を12才の息子、摩利彦に譲り、麻布の朽ち果てた須佐神社を受け継いだ。  神主の衣装も美しくて、独特な美青年のナルヒコは、普段は秘密倶楽部の黒服をやっている。  謎の多い人物だ。 立ち会い人はあの新宿桜会から、佐倉大五郎組長、片桐竜治若頭を筆頭に精鋭数名が、紋付羽織袴で馳せ参じた。  賓客は、藤尾集蔵の仕事を補佐する役員たち。もちろん日本を代表する上場企業の会長クラスの面々だ。あの藤田コンツェルンの、藤田國士(ふじたくにお)もいた。國士はロジャーの元秘書、サリナの結婚相手だ。  そして、以前藤尾と合同披露宴を挙げたメンバーがカップルで来ている。その数10名、5カップルだ。量子物理学博士、ロジャー・五十嵐・リチャーズが愛する嫁のミトをエスコートしている。  珍しく羽織袴の和正装だ。美少年ミトも良く似合っている。  そして高任一(たかとうはじめ)が嫁の柳貴裕(やなぎたかひろ)と一緒だ。 ハジメの従兄弟、高任傑(たかとうすぐる)の隣には嫁の礼於(れお)がいる。あのディアボラ、ナンバーワンホストのレオンだ。  高任家は武士の末裔の従兄弟同士、二人とも和正装が似合っている。剣道の有段者だけあって、背筋がピンと伸びている立ち姿が、美しい。  ひときわ美しい和装美人の小鉄とそれを支えるジョーさん。二人とも元ドラァグ・クィーンだから、立ち姿が綺麗だ。  そしてサディスト作家の沼田レイモンとその妻沼田尊(たける)。養子縁組をして沼田姓を名乗っている。女装が似合う美しい青年。今日は大振り袖を着ている。  そしてディアボラのオーナー、上条菫(かみじょうすみれ)と社長の円城寺隼人(えんじょうじはやと)。二人はカップルではない。  錚々たる顔ぶれにまじって立花澳門(たちばなみくお)とキース・フォン・バイルシュミットが居心地悪そうに座っている。ミクオの羽織袴が素敵でキースは落ち着かない。銀座でみんなと仕立てたタキシードが浮いている気がする。 「僕も羽織袴がよかったな。」 小声でミクオに抗議した。

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