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第76話 固めの盃
禊を済ませた新郎新婦の登場だ。
奥座敷に招待された人間がズラリと座る真ん中を、揃いの真っ白な羽織袴で歩いてくる集蔵と名都。
厳かな雰囲気の神棚の前に来る。
二礼二拍手でもう一礼、ナルヒコの前に進む。
荘厳な祝詞の後、盃を交わす儀式が始まる。
さすが礼を尽くした振る舞いは極道の鑑だった。桜会の若者の給仕は非の打ち所がない。満足そうに佐倉組長が見ている。
大幣を振るうナルヒコが契りを神に報告した。出席者に盃が廻る。
俯いている名都のまつ毛に涙が光る。集蔵が手を握っている。
集蔵の嫁になるということは、裏社会の権力の中枢に来た、という事だ。
ほぼ掌握したも同然の重い位置にいる。
名都はハッとして集蔵を見た。何かを訴えるような名都と目が合った。
それと同時にミクオも何かに気づいてしまった。キースが不思議そうにミクオを見る。
(メイトは反政府ゲリラに拉致されて拷問を受けたと聞いた。その件は片付いたのか?
政治的な禍根を残さずに済んだのか。)
デリケートな政治問題が一番マズい相手と祝言を挙げる事になった。
ミクオは戦乱を潜り抜けて来た自分だからわかる、と感じた。
「問題ないのか。」
人には誰でも過去がある。ましてや裏社会に関わる人間だ。政治も絡む。
進行役の片桐若頭が
「皆さん、滞りなく祝言の儀は終わりました。
場所を移して、披露宴会場は同じフロアに用意しています。それでは円城寺社長に交代します。」
「皆さんどうぞ。
ただいまから新郎新婦、お色直しの間、お食事をお楽しみください。」
円城寺が派手な衣装で賓客を案内している。桜会の強面の面々も羽織袴で立ち上がった。
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