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第80話 ライブ
凍夜は、首を締め付けるドレスシャツをボタンごとむしり取って胸を広げた。タキシードの片袖を脱いで、両肩の動きを確認した。
少し伸びた髪をかきあげてセットを崩した。
「いくよ!」
ベースの音が安定のリズムを刻む。信頼できる音。ドラムが強い音で入ってくる。
イントロを聴きながら
(ああ、ここが俺の居場所。
帰ってきたよ、ここに。)
『苦い麦』の静かな絶望を歌う。
淡々と物語る出口のない苦しみ。
そして突然のシャウト。逃れられない、解決はこれしか無かった、と歌う。
死の匂い。アップテンポの曲は悲しみを表さない。僅かな救いを歌う。
激しいロック。これがロック。観客が総立ちだ。
凍夜の身体が舞う。曲の躍動を、ダンスで鍛えた身体で表現する。
一曲終わってMC無し。水を一口飲んで次の曲。少しスローバラードが続く。
ミコトのデリケートな歌詞を静かに表現する凍夜のハスキーな声。
音が変わってラップになる。凍夜が苦労していたところだ。意外な早口フロウをこなす。アドリブで韻を踏んでいる。
「すげぇ!」
「凍夜ってこんな事も出来るの!」
ベースのリフが入る。ジャック・ブルースなみの即興へと続く。
腰でリズムを刻んでいる。ベースに絡んで二人ともカッコいい。
曲がピアノソロに替わる。ミクオの渋い低音で古いブルースを歌う。ピアノからドラムソロ。
金髪を振り乱して渾身のリズムを叩き出すキース。
スタンディングオベーション、みんな総立ちだ。
そこから、合成音の観音寺夢子の歌になった。
用意された巨大なスクリーンに映し出される夢子の踊り。ネットで有名なセクシーダンス。
ーだって君がいる。ー
夢子から受け取った、『苦い麦』の曲。僅かでも希望を残して終わる。
誰の胸にも灯りをともしただろう。
満場の拍手に送られて終わろうとするとアンコールの嵐が巻き起こった。
凍夜お得意のブルース、フーチークーチーマンを歌う。タカヨシのゆっくりしたブルースギターに松ちゃんのサックスが絡む。
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