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第82話 業界

「俺たち、あんたの所で仕事はしないよ。 金輪際、ね。」 凍夜が言った。テツも 「ナザレに気安く触んな!俺の彼女だ!」 言ってしまった。  音楽事務所『ネクスト』は最近出てきた会社で、アイドル系の売り出しに力を入れている。  地下アイドルを発掘してきて、そこそこ売り出している。劣悪な売り方に、真面目に頑張っているアイドルの卵たちには評判が悪い。  売り方が下品だ。顔や外見だけでスカウトしてきて、ろくにレッスンもさせないですぐに売り出そうとする。  女の子たちの人権を無視して、枕営業を仄めかしたりするらしい。  今日は政財界の大物がたくさん来ているから、小池は顔を売るのに必死だ。  凍夜たち売れていないバンドを舐めてかかっていた。 「君たちなら、Kポップアイドルにも負けないイケメングループとして売り出せるよ。  是非ともウチに来ないか?」  そこにレオンと話し込んでいたミコトが一緒に来た。 「なんという事だ! こんな美形が二人で歩いてきた。  君たちはもう芸能人かな?」 「何言ってんの?おじさん。 芸能人になるほど困ってないよ。」  小池は若い奴らはみんな芸能界に憧れているものだと思っていた。  レオンはディアボラのナンバーワンだ。大切にされている。いいお客さんをたくさん持っている。今は嫌な事はしなくて済む。  店に来た頃は円城寺に縛られて酷いことをされた。傑に助けられた。かけがえの無い人になる。  働く場所を見極めないと酷い思いをする事は、経験済みだ。  テツはナザレを俺の彼女だ、と言ったことを気にしていた。ナザレは何も言わない。  金もない、ただのバンドマン。 タカヨシだって、整備士の仕事を持っている。  ミクオはもちろんの事、キースだって父親の仕事を受け継ぐようだ。  松ちゃんはトラックドライバーだし、サブはユーチューバーだ。そこそこ稼いでいる。  ミコトは現役のホストで売れっ子らしい。 「あ、何もしてないのは凍夜だ。凍夜と話したい。」  テツは以前凍夜がディアボラでナンバーを張っていた事を知らない。凄い収入だった。  今でもその時の収入で暮らして余りある。  テツは今まで金に執着した事はない。日雇いのアルバイトをして、毎日ベースに関わっていたいだけだ。楽器を触れば満足だった。  それが、出会ってしまった。 ナザレに告白した。 「好きだ。付き合いたい。」 店に通う金もない。ミクオにまで借金をしている。付き合うって一体何をしたらいいのか?

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