83 / 143

第83話 テツ

 テツは親と同居している。一人暮らしに憧れるが、何せ経済力がない。  今までは時々タカヨシのアパートに転がり込んだりしていたが、彼女の春乃さんも来る。 「あーあ、金、欲しいなぁ。」 テツはサブに話してみた。この頃サブは銀座で出会った娘に連絡して、交際が始まったばかりらしい。サブも金儲けとは縁がない。  地味な暮らしだ。それでもスタジオに住んでいるのは羨ましい。いつも自分の好きな事が出来る。 「楽器の音を出せるアパートなんて高くて借りられないし。」  あれ以来ナザレには会っていない。『アンジー』に行くのには、金がかかる。  今日はスタジオにミコトがいた。 「ミコト、俺ホストやれないかな?」 「えっ?テツ、ホストやりたいの?」 「儲かるのか?」 「う、うん、やり方かな。 お試しで、来てみたら。 オレ円城寺さんに言っとくよ。」  というわけでテツはディアボラで働くことになった。成人式で着たスーツを家から持ってきた。  円城寺は簡単な面接で、すぐに入店を認めた。 テツはまあまあイケメンに入るだろう。身長は175cmでディアボラの基準ぎりぎりだった。  下の階のGジムで筋肉をつけろ、と言われた。 ホストの先輩の淳と零士が、少しメイクをしてくれて立派なイケメンが出来上がった。  高校生の頃は軽音部で結構モテていた。 「お酒飲める?」 「うん、まあまあ飲めると思う。」  ディアボラは、気のいい奴が多いから大丈夫、とミコトも言ってくれた。  話が早く、すぐに勤め始めた。住まいの問題があった。キースのスタジオの下の階に社員の住む部屋が余ってると聞いて借りる事になった。 「空いてるからいいよ。」 ゲオルグがオーケーしてくれた。 (人生って、あっという間に変わるんだな。 ホストなんて絶対できないと思ってたんだ。)  この所サブはあの銀座で名刺をくれた女の子とメールのやりとりをしている。 「凄く趣味が合うんだ。 夢子の事、なんでも知ってるし、アドバイスしてくれる。でも、なかなか会えないんだ。  銀座で会えたのが奇跡のようだよ。」

ともだちにシェアしよう!