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第86話 あゆむくん
挨拶もそこそこに、急がせて車を出した。
スタジオに連れて行く。
「じゃ、僕仕事だから行くね。」
「あ、ありがと。」
キースが出て行って二人になった。
「あの、北島です。
今日は、わざわざ来てくれてありがとう。」
女の子と二人きりで、緊張する。
「さっきの彼がキースだよ。
『凍てついた夜』のドラムの。」
「外国の人?」
「うん、ハーフだって。ドイツ人と。
カッコいいだろ。」
サブはいきなり超美形のキースと会わせたのを後悔した。
あゆむくんは居心地悪そうにしている。
「あ、夢子のフィギュア、さすがに大きいね、等身大?」
羨ましそうだ。作者の役得って奴。
「動画撮ってるって言ってたね。
どんなの撮ってるの?一人じゃ大変でしょ。」
「別に。」
あゆむくんは不機嫌だ。
そう言えば今日は初めからずっと不機嫌そうな顔をしている。サブに対して全く気遣いが無い。
(感じ悪いな。どうすればいいのか?)
「ねえ、サブ、ボクが来たの全然楽しくないでしょ。」
「自分の事、ボクって言うんだね。」
いきなりのサブ呼びも違和感がある。
メールでは、ボカロの話とかで盛り上がったのに、実際に会ってみると、なぜかしっくり来ない。
スタジオからサブの部屋に移動したのが悪かったのか。狭い部屋にベッドがあるのもまずい事だった?
「ボクとセックスしたい?」
「ああ、勘弁してくれよ。またこのパターンかよ。」
あゆむくんはじっと見つめて来る。
「そういうの、もういいよ。
何か勘違いしてるね。俺、物欲しそうかい?
人をバカにしてる?」
あゆむくんは見る見るうちに、目に涙をためて泣き出した。
「そういうメンタルの人、多いんだよね。
俺のファンだと言って近寄ってくるの。
あゆむくんは何を期待してここに来たの?」
冷たい言い方になってしまう。
「ホントは一人で来るの、怖かった。
さいたまから来たんだ。」
サブは気付いた。
「あゆむくんはいくつ?」
もしかしてもの凄く若いのではないか?
「うん、ボク、12才。」
「えっ?中学生?まさか小学生なの?」
「うん、6年生。」
「気がつかなかった。全然見えないね。」
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