88 / 143

第88話 あゆむくん 3

 ハグするだけでとどめた。これ以上はきっと犯罪だ。生真面目なサブは恐れた。でも、この子を離したくない。 「門限はあるの?」 「うん、7時。塾の日はもっと遅いけどママが迎えに来るから。」  さいたまだと、ここからだって1時間じゃ帰れない。 「門限に遅れないように送って行くよ。」  焦って帰り支度をさせた。 スタジオにテツとミコトが来ていた。 「あ、この前、銀座で会った子だ。 こんにちは、もう帰るの? 俺たちはこれから仕事だ。」 「何の仕事?」 「ホストだよ。君もおいで。歓迎するよ。 なんだったら同伴してくれる?」 「テツ、やめろ、未成年だ。」 「ホントだ、よく見たら若い。 もう少し大きくなったらね。」  あゆむくんを送って行く。途中までのつもりが浦和駅まで来てしまった。  電車の中でも手を握って離さない。帰宅時間にかかって少し混んだ車両で、両手でサブの手につかまっている。 (可愛い。俺ってロリコンだったのか?)  駅から歩いて行ける距離だ、というあゆむくんを見送ってまた電車で帰る。 (おふくろさんに挨拶した方が良かったかな?) いつになく温かい気持ちになって帰ってきた。 (いくら何でも若すぎる。可愛いけど恋愛対象にはならない。俺、どうかしてるな。)  それからサブの作風が変わって来た。夢子が可愛いキャラになって来た。  あのヒリヒリするような寂しさと戦っていた夢子が好きだったファンからマイナーなコメントが多く書き込まれるようになった。 ーなんか、幸せボケですか? ー日和ったな。 ー我らが孤独の帝王だったのに。  それでも夢子の瞳はしあわせで温かい光を見せている。  学校が休みの土日には必ず訪ねてくるあゆむくん。来ると夢子の新作の作画を手伝う。才能の片鱗を見せるあゆむくんが可愛くてならない。 「サブ、ボク色んなことに興味があるんだ。 ボクの初めてを全部サブにあげる。」 「まだまだダメだよ。あと6年は待とう。」 「じゃあ今はキスだけ。キスして。」 「中学生になったらな。」 「もうすぐだよ、約束だよ。」

ともだちにシェアしよう!