90 / 143

第90話 テツ

 テツは順調にホストを続けていた。 中々ナンバーには入れないが、そこそこ指名も増えて金が貯まった。  運転免許は持っていたので、キースに頼んで車を買った。アウディの中古車。  ホストになった事で逆に地味な生活をしている。時々『アンジー』の嬢たちが来てくれる。あの頃のように金が欲しい、とは思わなくなった。  ディアボラの客層は凄過ぎて、あまり上を見なくなったのもある。業界の大物の目に止まろうとは思わなくなった。 「テツ、この頃カッコよくなったね。 何か、達観したか?」  ミコトと一緒に『バー高任』に行くとマスターの傑に言われる。 「照れるなぁ、達観なんて。まだまだ若輩者ですよ。」 「丸くなったって事か。」  凍夜がミコトを迎えに来る。 「テツも送って行こうか?」 「大丈夫。ありがと。」  相変わらずバンドはぽつぽつと新曲を出す。 「サブの作風が変わったって評判だ。」 「みんな大人になっていくんだね。」  凍夜はサブに使いやすいローションとか、ゼリーの付いた滑りの良いゴムとかをプレゼントしている。 「俺とミコトの愛用の品だよ。」 ニヤリと笑いながら手渡してくれた。  イケメンが際立つ瞬間だ。悪巧みしている凍夜はいつにも増して色っぽい。 「使い方を教えなくていいかな?」 「いらん、いらん、ノーサンキューだ。」 「はは、サブはゲイの仲間になったんだなあ。」 「所でテツのナイトライフはどうなの?」 その後、ナザレには振られたと、思う。テツは水商売の実態を知って諦めた。様々なヒエラルキーの中で成り立っている。  ナザレが何を望んでいるのか、は、わからない。テツは他に好きな人もいないので、寂しいとは思っている。 「周りにこんなに人がいるのに、中々出会いって無いものだな。」

ともだちにシェアしよう!