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第90話 テツ
テツは順調にホストを続けていた。
中々ナンバーには入れないが、そこそこ指名も増えて金が貯まった。
運転免許は持っていたので、キースに頼んで車を買った。アウディの中古車。
ホストになった事で逆に地味な生活をしている。時々『アンジー』の嬢たちが来てくれる。あの頃のように金が欲しい、とは思わなくなった。
ディアボラの客層は凄過ぎて、あまり上を見なくなったのもある。業界の大物の目に止まろうとは思わなくなった。
「テツ、この頃カッコよくなったね。
何か、達観したか?」
ミコトと一緒に『バー高任』に行くとマスターの傑に言われる。
「照れるなぁ、達観なんて。まだまだ若輩者ですよ。」
「丸くなったって事か。」
凍夜がミコトを迎えに来る。
「テツも送って行こうか?」
「大丈夫。ありがと。」
相変わらずバンドはぽつぽつと新曲を出す。
「サブの作風が変わったって評判だ。」
「みんな大人になっていくんだね。」
凍夜はサブに使いやすいローションとか、ゼリーの付いた滑りの良いゴムとかをプレゼントしている。
「俺とミコトの愛用の品だよ。」
ニヤリと笑いながら手渡してくれた。
イケメンが際立つ瞬間だ。悪巧みしている凍夜はいつにも増して色っぽい。
「使い方を教えなくていいかな?」
「いらん、いらん、ノーサンキューだ。」
「はは、サブはゲイの仲間になったんだなあ。」
「所でテツのナイトライフはどうなの?」
その後、ナザレには振られたと、思う。テツは水商売の実態を知って諦めた。様々なヒエラルキーの中で成り立っている。
ナザレが何を望んでいるのか、は、わからない。テツは他に好きな人もいないので、寂しいとは思っている。
「周りにこんなに人がいるのに、中々出会いって無いものだな。」
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