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第95話 あゆむくんの願い
確かに大人っぽくて、しかも大人と付き合っている。敏感な思春期の中学生たちからは違和感を持たれるだろう。
(もう愛の喜びを知ってしまった。
教えたのは俺だ。)
サブは自分の欲望のままに、いたいけな子供を傷つけたのかもしれない。ここでいくら反省しても仕方がない。
「どうか、学業に支障のない範囲で、仕事を手伝ってはもらえませんか?彼は才能があります。」
「また、そんな事を言ってるんですか。
お帰りください。もう二度とあゆむに近寄らないで。会わないでください。」
母親は立ち上がって、帰るように促した。
縋るような目で見るあゆむくんを置いて帰って来た。あゆむくんは俺に棄てられた、と思っただろう。大人なのに何も出来ないなんて。
あゆむくんからのメール。
ーサブに会いたいよ。行ってもいい?
ママがいない時に家を出るよ。
ーダメだよ。これは犯罪なんだ。
未成年と付き合うのは。
親は絶対、なんだ。
そんなやり取りが続いた。心配だ。
子供は思いついたら何をするかわからない。
それでも我慢しているのか、あゆむくんは来なくなった。
バンドのための愛の歌がたくさん書ける。
つらい歌ばかり。新曲はラブソングだ。
スタジオにこもって、ずっと夢子を動かしていた。あゆむくんのおもかげの夢子。
そしてラブレターを書くように愛の歌を書いた。
ー愛してるって、まだ早いよ。
君が笑って海と競争してる。
波打ち際を走る君を追いかけて
笑い転げてたあの日。
あ、転んだ。
砂だらけの頬にキスしたね。
潮の味。ソルティーって笑った。
中学生の英語。
一緒に生きる未来が見えない。
また夢子の顔が憂いを帯びている。
ー帰って来たー
ー切ない夢子キター
ーやっぱ、夢子は少し不幸な方がいい
ファンの無責任なコメントに笑ってしまう。
『凍てついた夜』の新しいアルバムはスローバラードばかりになった。
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