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第96話 時の流れ

 時の経つのが遅い。いつかあゆむが大人になったら、迎えに行くことばかり夢に見る。  凍夜が話してくれたミコトとの馴れ初め。 真っ赤な薔薇の花束と指輪を持って白い車で迎えに行った事。白いスーツで。  洒落者の凍夜はカッコよかっただろう。目に浮かぶようだ。絵になる2人。凍夜とミコト。これ以上ない似合いのカップルだ。  それに比べてサブは何も持っていない、と思ってしまう。  胸を張ってあゆむを幸せにします、と言えない。凍夜がミコトを嫁にもらいに行ったのは、親代わりのゲイカップル、ヤマトとタケルの元だった。ゲイには理解ある環境。  今のサブとは違う。それにミコトは二十歳を過ぎていた。  寝ても覚めてもあゆむの事を思ってしまう。こんなに誰かを思った事はない。  幸せな未来が思い描けない。  突然、あゆむの両親が訪ねてきた。 「ここでいいのかしら。」 おずおずとスタジオに入ってきた。 (何かのお叱りを受けるのか? あれ以来あゆむとは会っていない。連絡も取っていない。)  親たちはスタジオを見まわしている。片付いていない雑多な物の多いスタジオに驚いている。大きな楽器も置いてある。 「あの、今日は何か?」 「ああ、初めまして。あゆむの父です。 実はあゆむが元気を無くして。ひどく痩せてしまって・・  私も妻も眠れてないのです。 このままでは家族が壊れてしまいます。」  背が高くて素敵なイケおじの父親だった。ずっと俯いたままの母親が辛さを物語っている。この人も痩せたようだ。 「どうして私の所にいらしたんですか? 私にどうしろ、と?」  母親が口を開いた。 「あの子に会ってやって欲しいんです。 勝手な言い分だとは承知しています。 どうかお願いします 今あの子を救えるのはあなたしかいません。」  この前と風向きが変わった。もう二度と会うな、と言っていたのに。

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