96 / 143
第96話 時の流れ
時の経つのが遅い。いつかあゆむが大人になったら、迎えに行くことばかり夢に見る。
凍夜が話してくれたミコトとの馴れ初め。
真っ赤な薔薇の花束と指輪を持って白い車で迎えに行った事。白いスーツで。
洒落者の凍夜はカッコよかっただろう。目に浮かぶようだ。絵になる2人。凍夜とミコト。これ以上ない似合いのカップルだ。
それに比べてサブは何も持っていない、と思ってしまう。
胸を張ってあゆむを幸せにします、と言えない。凍夜がミコトを嫁にもらいに行ったのは、親代わりのゲイカップル、ヤマトとタケルの元だった。ゲイには理解ある環境。
今のサブとは違う。それにミコトは二十歳を過ぎていた。
寝ても覚めてもあゆむの事を思ってしまう。こんなに誰かを思った事はない。
幸せな未来が思い描けない。
突然、あゆむの両親が訪ねてきた。
「ここでいいのかしら。」
おずおずとスタジオに入ってきた。
(何かのお叱りを受けるのか?
あれ以来あゆむとは会っていない。連絡も取っていない。)
親たちはスタジオを見まわしている。片付いていない雑多な物の多いスタジオに驚いている。大きな楽器も置いてある。
「あの、今日は何か?」
「ああ、初めまして。あゆむの父です。
実はあゆむが元気を無くして。ひどく痩せてしまって・・
私も妻も眠れてないのです。
このままでは家族が壊れてしまいます。」
背が高くて素敵なイケおじの父親だった。ずっと俯いたままの母親が辛さを物語っている。この人も痩せたようだ。
「どうして私の所にいらしたんですか?
私にどうしろ、と?」
母親が口を開いた。
「あの子に会ってやって欲しいんです。
勝手な言い分だとは承知しています。
どうかお願いします
今あの子を救えるのはあなたしかいません。」
この前と風向きが変わった。もう二度と会うな、と言っていたのに。
ともだちにシェアしよう!