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第97話 あゆむがいない
そのまま、父親の車に乗って浦和の家にいった。
「あゆむ、北島さんがみえたわよ。」
二階の部屋に声をかける。父親が気づいて階段を駆け上がった。
「あゆむ、返事しろ。」
父親が慌てて
「あゆむがいない。
あゆむのカバンも何もかもなくなっている。」
「えっ?」
周りを探し回って、リビングのテーブルに置き手紙らしいものを見つけた。
そこには
ーボクはサブに会いたい。一緒にいたいだけなんだ。ー
と書き殴ってあった。
「行き違いになったのかも。戻りましょう。」
サブはキースに連絡してスタジオを見に行って貰った。
あゆむが来たら鍵を開けて待てるように。気持ちがはやる。あゆむは無事なんだろうか。
スタジオにあゆむがいるとキースから連絡が来た。まずは一安心だ。
「急いで戻りましょう。」
両親を促して車に乗る。
車の中で父親と話をした。
「君はゲイなのか?」
直球で聞かれる。
「いえ、自覚はないです。
今まで男性とお付き合いした事はないです。
あゆむくんとも、そんなつもりは無かったです。」
「でも、あゆむはあなたに夢中です。
世間知らずの子供に何を教えたの?」
なじるように言う母親に父親も
「一方的だと思われても仕方がないよ、
君は大人なんだ。」
「はい、申し訳ありません。」
気まずい針の筵のような車の中から、やっとスタジオに戻って来た。
ずっとキースが、あゆむのそばに付いていてくれたようだ。
「サブッ、サブッ、ボクね、頑張ったんだよ。
一人で我慢したんだ。」
抱きついて泣きじゃくる、あゆむが愛しくてならない。抱きしめる。
(なんて薄い肩だ。こんなに痩せて。)
「これからどうする?
君はどういうつもりなんだ。」
厳しい父親の声に気持ちが怯む。
「お父さん、交際をお許しください。
あゆむくんを大切にします。」
「そうだな、あゆむの嬉しそうな顔を久しぶりに見たよ。親にもそんな顔はさせてやれなかった。君に任せて大丈夫なのか?」
「交際なんて!こんな子供と、本気ですか?」
母親は納得していない。
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